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相続実務士実例Report
おしどり贈与で自宅を配偶者に。相続税は節税になっている?
■本を読んで相談を 「相続税を減らす生前の不動産対策」
東海地方にお住いのAさん(50代・男性)より相談がありました。
Aさんは「相続税を減らす生前の不動産対策」を読んで、
そのとおりに父親の生前対策として、母親に自宅を贈与する対策をしたとのこと。
贈与をするにあたり、書籍には「名義替えの登録免許税」がかかること、「不動産取得税」がかかることは記載があったが、そのうえで質問があるといいます。
■生前の登記費用は相続の5倍
不動産の名義を変えるときには法務局で登記申請を行いますが、不動産の評価により登録免許税を負担しなければなりません。その登録免許税は、不動産の名義を変える内容により、税率が違います。通常の売買や贈与の場合は1000分の20ですが、相続となると1000分の4となります。つまり、相続が原因で不動産の名義を変えるときには、売買や贈与の5分の1でよいということなのです。
以下、国税庁webサイトより「登録免許税の税額表」を転記します。
(1)土地の所有権の移転登記
内容 |
課税標準 |
税率 |
軽減税率(措法72) |
売買 |
不動産の価額(注) |
1,000分の20 |
令和8年3月31日までの間に |
相続、法人の合併 |
不動産の価額(注) |
1,000分の4 |
- |
その他 |
不動産の価額(注) |
1,000分の20 |
- |
(注) 課税標準となる「不動産の価額」は、市町村役場で管理している固定資産課税台帳に登録された価格がある場合は、原則その価格です。固定資産課税台帳に登録された価格がない場合は、登記官が認定した価額になりますので、その不動産を管轄する登記所にお問い合わせください。
相続による土地の所有権の移転登記等について、次の免税措置があります。
1 相続(相続人に対する遺贈を含みます。以下同じです。)により土地の所有権を取得した個人が、その相続によるその土地の所有権の移転登記を受ける前に死亡した場合には、令和7年3月31日までに、その死亡した個人をその土地の所有権の登記名義人とするために受ける登記については、登録免許税は課されません。
2 個人が、令和7年3月31日までに、土地について所有権の保存登記(不動産登記法第2条第10号に規定する表題部所有者の相続人が受けるものに限ります。)または相続による所有権の移転登記を受ける場合において、これらの登記に係る登録免許税の課税標準となる不動産の価額が100万円以下であるときは、その土地の所有権の保存登記またはその土地の相続による所有権の移転登記については、登録免許税は課されません。
(2)建物の登記
内容 |
課税標準 |
税率 |
軽減税率(措法72の2~措法75) |
所有権の保存 |
不動産の価額(注) |
1,000分の4 |
個人が、住宅用家屋を新築または取得し自己の居住の用に供した場合については「(3)住宅用家屋の軽減税率」を参照してください。 |
売買または競売による所有権の移転 |
不動産の価額(注) |
1,000分の20 |
同上 |
相続または法人の合併による所有権の移転 |
不動産の価額(注) |
1,000分の4 |
- |
その他の所有権の移転(贈与・交換・収用等) |
不動産の価額(注) |
1,000分の20 |
- |
(注) 課税標準となる「不動産の価額」は、市町村役場で管理している固定資産課税台帳に登録された価格がある場合は、原則その価格です。固定資産課税台帳に登録された価格がない場合は、登記官が認定した価額になりますので、その不動産を管轄する登記所にお問い合わせください。
■不動産取得税は相続ではかからない
不動産を購入したり、贈与を受けたときには、名義替えの登録免許税だけでなく、不動産取得税が課税されます。けれども、相続によって不動産を取得した場合は、不動産取得税は課税されないのです。これは、相続人の意思に関係なく不動産を取得するという理由で、不動産取得税が課税されないよう定められています。
相続による所有権の変更は、取得ではなく「形式的な所有権の移転等」とみなされるため、形式的な所有権の移転等に対する不動産取得税の非課税と定められています。
よって、亡くなった人の所有する不動産は、相続された場合は、不動産取得税がかからないのです。
ただし、死因贈与という相続とは異なる形態で不動産を取得した場合は、不動産取得税が課税されますので、注意が必要です。
■節税になっているのか?
Aさんのお話は、「父親が、母親に“おしどり贈与”の特例を適用して自宅を贈与したが、登録免許税は相続の5倍かかり、不動産取得税もかかった。これでは相続のときに配偶者の無税の範囲で相続してもらい、登録免許税が5分の1、取得税はかからないだけでも良かったのではないでしょうか?本では“おしどり贈与”は確実な節税になると書いてあったのでそのとおりにしたが、節税になっているでしょうか?」という内容でした。
仮に“おしどり贈与”を適用して、自宅を評価の2000万円、贈与したとすると、相続財産から2000万円はすでに先渡ししており、減っていますので、相続税は評価の2000万円分は、確実に節税になっているということで、本に書いてあるとおりですとAさんに説明をしました。
■父親の財産は1億6000万円程
Aさんの父親の財産は1億6000万円で、“おしどり贈与”をしたあとは1億4000万円だとなります。父親の相続人は配偶者とAさんと妹の3人。“おしどり贈与”の節税効果は下記のようになります。
◇対策前の財産評価 1億6000万円―基礎控除4800万円=課税遺産総額1億1200万円
配偶者 5600万円×税率30%-700万円=980万円
子ども 2800万円×税率15%―50万円×2人=740万円
相続税 980万円+740万円=1720万円
◇贈与後の財産評価 1億4000万円―基礎控除4800万円=課税遺産総額9200万円
配偶者 4600万円×税率20%-200万円=720万円
子ども 2300万円×税率15%―50万円×2人=590万円
相続税 720万円+590万円=1310万円
■相続税の節税効果 1720万円―1310万円=410万円
“おしどり贈与”をしたことにより、減らせた相続税は410万円という計算になります。費用対効果を考えても、仮に登録免許税の相続よりも多い分と不動産取得税を合わせて仮に100万円かかったとしても、相続税は310万円節税効果があるとなります。
よってAさんの質問である「節税になっているのか?」に対しては、確実な節税になっているという回答ですし、費用対効果を検証しても効果はあるという結論になります。
■贈与の前に専門家に相談しよう
Aさんからご質問があったのは、本を読んで理解して贈与をした後でした。後になって失敗したとか、後悔したということにならないように、事前に相続の専門家に相談し、全体の財産を確認したうえで、それでも“おしどり贈与”をするのが効果的なのか、あるいは、相続まで待った方が得策なのかをアドバイスしてもらうことをお勧めします。
1つ1つの対策は効果的と言えても、全体のバランスで判断は変わることがあります。
自分の判断だけでなく、相続のプロの判断を仰いで失敗や後悔がない対策を進めましょう。
■相続実務士のアドバイス
できる対策
婚姻20年以上の配偶者は自宅不動産について、
“おしどり贈与”を受けることができ、評価の2000万円までは贈与税がかからない
注意ポイント
自宅の贈与については、名義替えの登録免許税と不動産取得税がかかるため、
相続のタイミングを生かしたほうがいい場合もあります。相続のプロに判断を仰ぎましょう。
最初のご相談は無料です。
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