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相続実務士実例Report

おひとりさまの相続は養子か?遺言書で遺贈か?どちらが得する?

■配偶者を亡くした叔母には子どもがいない

40代の女性Мさんが相談に来られました。母親の姉にあたる叔母の相続のことでどうすればいいか迷っているとのことで、事情を聞いてみました。

叔母は配偶者を亡くして、一人暮らしをしていましたが、90代を過ぎて自宅での生活が大変となり、現在は老人をホームで暮らしているといいます。その叔母には子どもがなく、叔母が亡くなった時の相続人はきょうだいしまいになります。

叔母は6人きょうだいの一番上の長女で、下に長男、次男、次女、三女、四女の5人がいますが、そのうち健在なのは次男だけで、全員亡くなっていて、Мさんの母親は一番下の四女になります。

 

■妹が面倒を看ていたのに先に亡くなる

Мさんの母親は一番下ということもあり、叔母とは一回り以上も離れています。叔母も一番下の妹ということで、Мさんの母親をいちばん可愛く思っていたようで、ずっと交流がありました。そうしたことからМさんも叔母のことはとても身近な存在だったと言えます。

Мさんの母親は、叔母が80代になる頃から定期的に通ってはいろいろと面倒を看てきました。叔母もそんな妹を頼りにして預金の管理など任せてきました。

ところが、そんな母親が脳梗塞で急死してしまったのです。母親が亡くなったことによってその子であるМさんも叔母の代襲相続人になったというわけです。

 

■叔母の相続人はきょうだいと甥姪で10人!

叔母の配偶者は5年前に亡くなり、公正証書遺言により、妻である叔母が夫の全財産を受け取ることができて、いまの叔母の財産になっています。

叔母の財産は自宅マンションと賃貸している区分マンションが4部屋とアパートが1棟あり、不動産評価は6400万円。預金が3000万円あり、合わせた叔母の財産は9400万円と試算できました。

叔母はもともと6人きょうだいですが、叔母と次男以外の4人がもう亡くなっています。その子が代襲相続人となりますので、法定相続人は長男の子2人、次男、次女の子2人、三女の子2人、四女の子3人(Мさんは四女の長女)で10人となります。

 

■叔母の面倒は亡母親とМさん家族が看てきた

叔母がひとり暮らしになってからはМさんの母親が毎週マンションに行ってはお金の管理や賃貸物件の管理をサポートしてきましたので、叔母は自分の財産はМさんの母親か、姪のМさんに託したと常々言ってくれていました。Мさんは独身で、実家で両親と同居していますので、母親が叔母さんのマンションに行くときには一緒に行き、掃除や買い物を手伝っていますので、自然な流れだと言えます。Мさんの妹二人は離れたところに嫁いでいて、叔母の面倒を看る余裕がないため、叔母の意向に関しては異論はないと言います。

健在の叔父は80代と高齢で叔母のところに行くこともできないということで、他の代襲相続人は離れたところに住んでいたり、普段の行き来がないことから、今後、叔母の介護を引き受けてくれる見込みはありません。

■養子縁組の申請を出していいのか?

そうしたことからも叔母の介護は母親とМさんが引き受けていく暗黙の了解ができていました。叔母からも母親とМさんに頼むと言われていますし、叔母はМさんと養子縁組してもよいとも言ってくれています。

養子縁組すれば、戸籍上、Мさんは叔母の子どもとなりますので、きょうだいに相続権が発生することはありません。

この養子縁組の申請書は叔母もМさんも記入が終わっていて、いつでも出せる状態だといいます。

この養子縁組の申請を提出したほうがいいか?ということもご質問のひとつでした。

養子縁組をしない場合は、遺産分割協議が必要になりますが、人数が多いと大変です。叔母の意思は財産はМさんに渡すとのことで固まっているというので、遺言書を作成する方法も取れます。

 

■養子縁組?遺言書で遺贈?メリット、デメリット

養子縁組のメリットは、相続人がひとりになり、争いはなくなる。デメリットは相続税の基礎控除が1人分の3600万円かしかない。

遺言書のメリットは遺産分割が不要。叔母の意思が実現できる。きょうだいしまいには遺留分の請求権がないので相続の仕方が確定できる。基礎控除は法定相続人分をカウントできるので、9000万円のまま。デメリットは遺言書の作成に費用がかかり、証人も必要になる。

 

■相続税がどれくらい違うか?

それぞれの相続税の概算を比べてみました。財産は9400万円

相続人1人・養子縁組→ 相続税1040万円

相続人10人・遺言書→ 相続税40万円

基礎控除が9000万円あるのと、3600万円しかないのとでは、相続税は養子になってしまうと26倍になるのです。

このように相続税を比較すると、争いを避けるためによかれと思って養子縁組をすると、思わぬ落とし穴で相続税が跳ね上がるということが想定されました。

この内容を叔母にも説明し、公正証書遺言を作る方向で決まりましたので、準備を進めています。

 

■遺言書の文案例

令和6年 第   号 遺言公正証書

 本公証人は、令和〇年〇月〇日、遺言者○○○○の嘱託により、後記証人の立会いの下に、遺言者の口述の趣旨を次のとおり筆記し、この証書を作成する。

 

第1条 遺言者は、遺言者の有する下記不動産並びに現金・預貯金及び有価証券等金融資産を含む一切の財産を遺言者の代襲相続人である○○○○(昭和〇〇年〇月○○日生。以下、「代襲相続人○○」という。)に相続させる。

【不動産の表示】・・・詳細記載(省略)

 

第2条 遺言者は、代襲相続人○○○○に対し、遺言者の保有する前条に掲記の財産以外のその他の一切の財産を相続させる。

 

第3条(債務・費用)

  遺言者は、次の債務・費用を○○○○に承継又は負担させるものとし、後記遺言執行者は、第1条記載の預貯金等金融資産を随時その支払に充てることができる。

 ⑴ 遺言者の未払の一切の債務(公租公課・借入金・入院費・医療費・介護関係費・日常家事債務等)

 ⑵ 遺言者の葬儀、埋葬、供養に要する費用

 ⑶ この遺言の執行のために要する費用 

 

第4条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として、前記代襲相続人○○○○を指定する。

2 遺言執行者は、預貯金その他金融資産の名義書換、解約、払戻し、貸金庫の開披等この遺言執行に要する一切の権限を有する。

3 遺言執行者は、この遺言の執行に関し、必要があるときは、第三者にその任務を行わせることができる。

 

(付言事項)

 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

以 上

遺言者          ○ ○ ○ ○

昭和〇年〇月〇日生

上記は、印鑑登録証明書の提出により、人違いでないことを証明させた。

 

株式会社夢相続

会社役員

証 人        曽  根  惠  子

           昭和○○年○○月○○日生

株式会社夢相続

会社員

証 人         ○ ○ ○ ○

             昭和○○年○○月○○日生

 

以上のとおり読み聞かせ、かつ、閲覧させたところ、一同その記載に誤りがないことを承認し、遺言者及び証人は、次に署名押印する。

 

 

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