事例
相続実務士が対応した実例をご紹介!
相続実務士実例Report
おひとりさまの財産は知人へ。使用貸借の建物は対抗できず。ハンコを押せと!
■突然の訪問者がハンコを求めてくる
Kさん(40代女性)が相談に来られました。Kさんのもとに全く面識のない不動産会社の人と女性Yさんが訪ねてきたと言います。Kさんは戸惑いながらも事情を聞いてみたところ、2人の説明は次のようなことでした。
「Yさんが遺贈を受けた土地に、Kさんの父親名義の建物があり、相続税を払うために土地を売却するが、建物があると売れないため解体したいが、Kさんの父親は亡くなっていて、相続人は一人娘のKさんだけになるため、解体してもいいという書類にハンコをもらいたい。解体費はこちらで負担する」と。
困ったKさんはどうすればいいかと相談に来られたのでした。
■両親は離婚していて父親とは行き来がなかった
Kさんの両親はKさんが生まれて間もなく、離婚。母親はKさんを連れて父親の家から出ているため、Kさんは父親と暮らした記憶はありません。その後、母親の話では養育費ももらわず、一切の交流はなかったため、父親がどんな生活をしてきたのか、まったく見当がつかないといいます。
当然、母親も父親や父親の親族とはまったくの交流を絶っていたため、父親が亡くなったことも知らされておらず、今回、不動産会社の人とYさんから知らされて、ようやく知ったようなことでした。
■相続人ではない人が、公正証書遺言で遺贈を受けた
Yさんが遺贈を受けた土地はKさんの父親の妹の名義になっていたのですが、本年、父親の妹が亡くなったため、公正証書遺言でYさんが遺贈を受けたと言います。Kさんの父親は母親と離婚後、再婚していなかったようで、配偶者はなく、相続人はKさんひとりでした。父親の妹も独身で、配偶者、子どもがいなかったため、親がすでに亡くなっている場合は、相続人はきょうだいとなり、Kさんが亡くなった父親の代襲相続人となるところでした。けれども、まだ母親が健在ですので、亡くなった父親の妹の相続人はその母親一人となります。
ところが、そうした相続人の予定が、公正証書遺言により亡くなった妹の財産は、公正証書遺言によりすべてYさんが遺贈を受けたということです。
当社がKさんの依頼をもとに、Yさんから資料を提供してもらい、確認したところ、
確かに、その土地はすでに名義変更登記が終わっていて、父親の妹から、Yさん名義に変わっていました。
■父親の建物の価値は?
父親名義の建物については築年数15年くらいですが、間取りは一般的なファミリータイプの需要性のあるものではなく、父親の家と祖母と父親の妹の家の二世帯住宅だったようで、玄関が別々となっている1Kが父親が生活していた部屋だということでした。建物1棟は父親名義ながら、父親が使っていたのは全体の4分の1、残る4分の3は妹と祖母に家だったようです。
建物は40坪、建物の固定資産税評価は800万円あります。
土地は60坪、売る場合は、4,200万円から5,000万円くらいの間の販売価格になりますので、現在の建物を解体して更地にしたほうが売りやすいということのようです。
けれども、Kさんにとっては、父親が亡くなったことも初めて知ったことで、父親の相続や財産のことなど何も知らされていないどころか、財産となる建物も取り上げられるとなるとあまりに理不尽で、すんなりハンコを押していいか、迷うことろでしょう。
Yさんが、Kさんの建物を買い取りなり、いくらか費用を払うようにしてもらえるなどないと、決断できないのは無理もありません。そこで、当社は業務提携先の弁護士とも相談、どのようにするのがいいか、検討しました。
■土地は使用貸借、借主の死亡により終了する
土地と建物の所有者が違う場合、建物の所有者土地の所有者から借りている状態と言えます。本来であれば地代や権利金を払って建てるところですが、親族の場合はタダでかりている使用貸借のことがよくあるパターンです。Kさんの父親の場合も、おそらく使用貸借の状態で土地を無償で借りて、建物を建てたのではないかと推測されます。
父親が先に亡くなっていますので、建物を妹に遺贈する手続きをしていればKさんに話が来ることはなかったのですが、そうした手続きはされておらず、現在も建物の名義は亡くなった父親のままとなっています。
ところが、今回法的に問題となるのは、借主である父親が亡くなっていますので、死亡により使用貸借契約が終了するか否か、という点になります。
当社の義用務提携先の弁護士に確認したところ、この点については、民法597条3項において、「使用貸借は、借主の死亡によって終了する」と規定されおり、原則論でいえば、この条項が適用され、借主死亡により使用貸借契約は終了するため、建物所有者は、建物を収去し、土地を明け渡す必要がありますという回答でした。
■建物を使用していないため、権利主張が難しい
使用貸借という現状から、法的には、権利主張をすることは難しいのが原則だとなりました。
弁護士の説明では、「裁判例上、建物所有目的の土地の使用貸借の場合、「建物の使用が終らない間に借主が死亡しても、特段の事情のない限り敷地の使用貸借が当然に終了するものではない。」と判断しているものもあります(大阪高裁昭和55年1月30日判決)。
なお、この点については、具体的な事情により裁判例においても判断が分かれているところです。したがって、例えば、対象となっている建物を相続人であるKさんが使用しているような場合には、使用貸借が終了していないとして権利主張をすることができる可能性はあるかと思いますが、もし利用されていないという場合には、「建物の使用が終わった」と評価され、借主死亡により、使用貸借契約が終了したと判断される可能性が相当程度高いものと思われます。」とのことで、やはり、権利主張は難しいと判断しました。
そこで、KさんにはYさんからいわゆるハンコ代程度の謝礼を払ってもらい、解体を承諾するほうがいいとアドバイスした次第です。
■親族以外の他人が全財産の遺贈を受ける違和感
今回、Yさんは親族ではなく、まったくの他人ながら、公正証書遺言により財産の遺贈を受けていますが、親族であるKさんでなくても、違和感を感じるところです。生前に交流がないとしても、親族に通知もなく、手続きをしてしまうところにも意図的なものを感じるところです。
生前に交流がなく、財産の形成や介護などの貢献をしていないこともありますが、それでも親族であり、養育費ももらわずにきたことから、せめて相続のときくらいは、まったくの他人に渡すなら、いくらかでも親族にわたしてあげようという配慮がないものかと残念におもうところです。
残るは亡くなった父親の妹の相続人の母親の権利=遺留分について、侵害請求することを検討してもいいと思えますので、この機に、Kさんにとっては祖母であり、父親の代襲相続人の立場で、交流を持つようアドバイスをしました。
また、それは将来の祖母の相続のときに慌てなくてもすむことになりますので、Kさんにとってはいいきっかけになるはずです。
仮に今回、遺留分侵害額請求をして祖母の財産が確保できるのであれば、祖母の相続財産として受け取ることができるため、今回、もらえなかった財産のかわりになると言えます。
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