事例
相続実務士が対応した実例をご紹介!
相続実務士実例Report
介護した妻の寄与はどうなる?法律どおりだと理不尽な現実に配慮しないと。
■介護していた夫が亡くなった
Yさん(60代女性)が相談に来られました。夫は現役で仕事をしていた65歳のとき、仕事中に倒れて救急搬送。命はとりとめたものの半身不随となり、要介護5になり、それ以降はYさんが仕事もやめて、自宅で介護をしてきたといいます。
夫は自宅療養になってからも定期的に病院で定期検診を受けています。今年の定期検査の結果は良好で、安定しているので心配はないと太鼓判を押してもらったばかりでしたが、検査の翌朝、突然亡くなってしまったのです。
その後、司法書士に依頼をしたものの、不安なことがでてきたため、どうすればいいか、Yさんと息子さんの2人で相談に来られました
■夫とは再婚。先妻の子がいる。自分の子は1人祖。
Yさんと夫は40年前に結婚しています。Yさんは初婚で、一人息子に恵まれました。10歳年上の夫は再婚で、先妻との間に娘が1人います。
夫は上場会社に勤務していましたので、転勤先の同僚と結婚して娘が生まれたものの2年で協議離婚したそうです。
先妻との娘は40代ですが、夫は離婚してから、40年、全く会っていないといいます。当然ながら、Yさんや息子も先妻の子とは会ったこともなく、どこに住んでいるかも知らないのです。
■司法書士に相談していた
Yさんは昨年、知人の紹介で、夫のことを司法書士に相談をしていていました。介護が長くなり、70代になった夫に認知症の症状が出てきたため、これからのことが不安になり、何をすればいいのかをアドバイスもらいたかったのです。先妻の子がいることは司法書士にも説明済です。
日々の介護はYさんがひとりで引き受けているので、夫もYさんに負担をかけていることは承知しており、「自分の財産はすべてYさんに渡す」と言ってくれていました。一人息子は家からは通えないところにある大学に入ったことをきっかけに家から離れて暮らしています。社会人になって結婚した現在では、職場の近くにマンションを買っていますので、父親の介護に協力できる余裕はないようです。
そういう状況で、Yさんの貢献度は明らか。司法書士が自宅のおしどり贈与や遺言書などの方法をサポートしてくれるかと期待はしたものの、相談だけで進まなかったといいます。
■司法書士は法律優先
亡くなった後も引き続き、同じ司法書士に依頼して、財産の目録を作ってもらいました。夫の相続人は妻と子ども2人の3人で基礎控除は4800万円です。夫の財産を確認すると、自宅の土地建物が2800万円、預金と株で1800万円、合計4600万円だということで、相続税の申告は不要だとわかりました。
司法書士の方針は、とにかく法定相続分が基本になるため、遺産分割案は、「妻は自宅を、子供たちは預貯金・株などを現金化し均等に相続することを提案する」ということです。
そうなるとYさんは自宅を相続できるが、子どもに250万円ずつ、計500万円を代償金として払わないといけなくなります。これから老後の生活のことを考えると500万円を払うことには不安があります。
なにより、夫の介護はYさんがひとりで担当しても息子は仕事が忙しく手伝ってもらえませんでした。まして先妻の子は40年以上も行き来もしていないのです。
■介護の貢献は?法定割合の配分でないと受けられない
Yさんには司法書士の分割案が有利とは思えず、違和感がありましたので、「夫からは全財産を相続していいと聞いているし、介護した寄与分があるので、財産全部を自分が相続したい」と主張しました。
けれども、「それは司法書士では無理。しかも妻の寄与分は認められないのがほとんど。法定相続分による分割でいきましょう」と言われてしまったのです。
「全部を妻に」となると、法定相続での配分にならないので、司法書士はできないといいます。
けれども、Yさんはまだ60代。これから20年、30年先の老後まで、安定した生活ができるか、とても不安になったということです。
また、先妻の子にはまだなにも知らせていないため、入り口はそこからになります。
■現実的な遺産分割をするために
司法書士が先妻の子の戸籍や住民票を取得していましたので、連絡をすることができる状況でした。
今回のように、先妻の子がいて、親との交流がなく、亡くなったことも知らせていない、けれども、遺言書がないので、遺産分割協議に協力をしてもらう必要があるご家庭はあり、夢相続では何度もお手伝いをしてきています。
Yさんにも委託を頂き、先妻の子に通知するところから始めましした。
反応は、相手があることなので、切り出してもないとなんともわかりません。ほんとうにケースバイ、ケースバイですが、長年会ってもいない戸籍上の親の相続とはかかわりたくないという方もあり、自ら相続放棄をされることもあります。
親が亡くなったことを知らせる通知をするようにしますが、下記のような通知文を送って理解や協力を得るようにします。
■通知文 例1
前略 この度、令和6年○○月○○日にお亡くなりました ○○○○○○
様(被相続人・亡くなった人)の相続手続きの依頼を受け、○○○○様(先妻の子)も相続人となられますため、連絡をさせていただいた次第です。
○○○○様(被相続人・亡くなった人)は脳梗塞で倒れて以降、10年以上もご家族で介護をされていた状況にありました。口頭での意思は明確でしたが、遺言書の作成は間に合わなかったため、○○○○様(先妻の子)にもご協力をお願いする必要がございました。
大変恐縮ではありますが、ご説明を差し上げ、ご意向を伺いたく存じますので、ご都合のよい時に下記まで、電話、メールを頂ければ幸いです。後略
■通知文 例2
前略 令和6年○○月○○日にお亡くなりました○○○○様(被相続人・亡くなった人)の相続手続きの依頼をご家族より受け、相続人となられる○○○○様(先妻の子)に○○月○○日付のお手紙で連絡をさせていただきました。ご連絡をお待ちしておりましたが、現時点でまだご連絡を頂けておりません。
つきましては、お忙しいところ大変恐縮ではありますが、○○月○○日までに、下記まで電話、メール、手紙などでお返事を頂きたく、再度ご連絡を差し上げました。
先般もお伝えしたように、○○○○様は脳梗塞で倒れて以降、10年以上もご自宅で奥様が介護をされていた状況にありました。口頭での意思は明確でしたが、遺言書の作成は間に合わず、遺産分割協議が必要なためご協力をお願いする次第です。
本年、登記法が変わり、相続発生後3年以内に不動産の名義替えをすることが義務化となりました。それらを踏まえて、早々の相続手続きの必要があります。もし、このままご連絡を頂けない場合は、家庭裁判所の調停に申立てをせざるを得なくなり、○○○○様(先妻の子・相続人)にも時間や費用等のマイナス面が生じかねません。何卒、ご理解ご協力の程、よろしくお願い申し上げます。後略。
■まとめ
ほどなく先妻の子の代理人の弁護士から、「相続放棄の手続きを進める」という連絡がありましたので、相続放棄が成立すると、Yさんと息子の2人で遺産分割協議ができますので、大きな問題はなくなります。
法定割合という基準はありますが、現実的な遺産分割を考えると介護に貢献した妻が自宅と預金などを全財産を相続するのが妥当なところです。
相続は法律だけでは解決しない現実があります。権利はあるものの、状況に応じて現実的な遺産分割をしていくのとが望ましいといえます。
しかしながら、生前にチャンスがあったにも関わらず、何もできなかった司法書士には残念に思いますし、相続後も「法律」に頼らないと進めていけないのであれば司法書士の人間力は不要なのだと思うところです。
生前、夢相続に相談を頂いていれば、夫の意思を尊重した公正証書遺言が作れていたはず。半年以上も不安な思いをかかえて、先妻の子どもにも弁護士費用を負担させることもなかったと言えます。
最初のご相談は無料です。
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