事例
相続実務士が対応した実例をご紹介!
相続実務士実例Report
住んでいる人に相続させるのが無難。特例適用すれば節税もできる!
■父親は長男と同居、相続人は子ども3人
Kさん(60代男性)が父親(90代)の相続のことで相談に来られました。Kさんは次男ですが、ずっと実家で両親と同居してきました。Kさんには60代の兄と50代の妹がいます。兄も、妹も、結婚を機に実家を離れて生活をしています。
母親は10年前に亡くなりましたが、父親は90代になった現在も自宅で生活をしています。Kさんは独身ということもあり、実家に住みながら、父親の面倒を看てきていると言います。
■父親がひとり暮らしになったときに
Kさんは現在は通常の生活ができていますが、母親が亡くなった直後は仕事をしながら、家事が増えてしまい、体調を崩してしまい、検査をすると、手術が必要な病気が見つかり、入院を余儀なくされたことがありました。手術を終えて、退院するまでに1年ほどかかりましたので、その間、父親は一人暮らしをしていました。
退院後に発覚したのは、Kさんが入院している間に長男が段取りをして、父親に公正証書遺言を作らせたということでした。Kさんに万一のことがあるかもしれないということだったのかもしれませんが、Kさんが同居する父親名義の自宅は、「長男に相続させる」という内容の遺言書になっていました。
■長男はKさんや妹に内緒で遺言書を
Kさんが入院中ということもありますが、兄は父親に遺言書を作ってもらうときに、Kさんや妹には知らせずに、内緒で遺言書を作っています。そのまま隠したかったのかもしれませんが、Kさんが退院して、休職していて時間的な余裕ができたときに家の整理をしていて発見したのでした。
父親に問い詰めると、すべて兄が段取をして、断る雰囲気ではなかったため、任せてしまったと言います。
■自宅は同居する次男に、現実的
父親の財産は、自宅と妹家族が住む家と金融資産で約8000万円。自宅に同居するKさんが相続すれば特例が活かせるので、相続税の申告をすれば、納税は不要です。
しかし、同居をしておらず、すでに自分の家を所有する長男が相続したとすると小規模宅地等の特例が使えませんので、300万円程の納税は必要になります。こうしたことからも、自宅は父親と同居して、介護しているKさんが相続することが自然の流れだといえます。
父親にあらためて真意を確認すると、「自宅は同居する次男に相続させる」ということです。それであれば、遺言書は作り直すとなりました。
■遺言書は後から作成したものが有効
遺言は亡くなった人の生前における最後の意思表示であり、その死後、法律的に保護し、実現させるための制度です。遺言書が見つかり、遺産分割の方法や相続割合の指定などがある場合は、優先され、原則として遺言通りに相続することになります。そのため、相続になった場合は、法定相続人の確定と同時に、遺言書があるのか、ないのかを確認するようにします。自筆証書遺言の場合は、自宅や貸金庫を確認します。法務局に保管してある場合もあるでしょう。公正証書遺言の場合は、公証役場で確認することもできます。
遺言書があれば、法定相続分による相続よりも、遺言書の内容が優先されます。よって法定相続人ではない第三者に財産を遺贈する内容や一部の相続人に多く渡す内容であっても遺言書が優先されます。
遺言書で法的効力を持たせることができるのは、①相続について(相続分や分割方法、特別受益の免除、廃除および廃除の取り消し、 遺留分減殺の方法、遺言執行者の指定など)、②身分について(遺言による認知、後見人の指定および後見監督人の指定など)、③遺産分割について(遺贈、寄付行為、生命保険金受取人指定、信託の設定など)の3つと決まっており、それ以外の内容については相続人の意思に任されます。
■部分的に作り直すこともできる
遺言書は全部をあらたに作り直すこともできますが、部分的に変更したいところだけを作り直すことも可能です。以前に作成した父親の公正証書遺言は、自宅以外は、長女に住む家に、金融資産や負債は、3等分となっていますので、あらためて作り直す必要はないということです。
それであれば、作り変える部分は自宅を次男とし、作り直す理由を付言事項に記載するようにしました。
■長男から否認されないための証拠も残す 動画でもよい
公正証書遺言は公証人が本人の意思確認をして作成しますので、本人の意思ではないということはありません。また、認知症で意思確認ができない場合も作ることはできないため、無効になることもありません。
しかし、長男の意思ではない内容だと不服に思ったり、無効だと主張をされなくもありません。父親から長男に伝えてもらうようにできればいいのですが、機会が作れないことも想定し、父親の意思で遺言書を作ったという証拠を残すようにアドバイスしました。
Kさんの父親は会話も問題なくできますので、スマートフォンで録画して「自宅は次男に相続させる」と話しているところを動画で撮影して保存してありますので、説得材料になります。
■遺言書は作れて安心できた
父親の意思が明確だったことから、公正証書遺言は部分的に作り直すことができ、父親もKさんも安心されました。これからまだ介護が続きますので、心おきなく父親の介護ができると言っておられます。長女には事情を伝えて納得してもらっており、機会を見て長男にも伝えてもらうようにお勧めしています。
遺言書の文案
令和6年第 号
遺言公正証書
本公証人は、遺言者○○○○の嘱託により、後記証人2名の立会いのもとに、遺言者の口述を筆記して、この証書を作成する。
遺言者は、令和〇年〇月○○日東京法務局所属公証人○○○○年第○○号遺言公正証書による遺言(以下「原遺言」という。)の一部を次のように変更する。それ以外の部分は、全て原遺言のとおりである。
第1 原遺言第3条を次のように改める。
第3条
遺言者は、遺言者の有する下記財産(持分の記載は、遺言作成時の遺言者の持分であり、遺言効力発生時に遺言者が有する持分の全て)を、遺言者の次男〇〇○○一(昭和〇〇年〇月〇日生。)に相続させる。
記
不動産(土地)
所 在 ○○〇〇
地 番 ○○番〇〇
地 目 宅地
地 積 〇〇.〇〇㎡
第2 原遺言の最後に第7条として、次の条項を追加する。
第7条
遺言者は、遺言者の未払いの医療費、公租公課及びその他一切の債務、並びに本遺言を執行するために必要な費用を次男○○に承継させ、負担させる。
第3 原遺言の付言事項に次の付言を追加する。
付言事項
前回の遺言では、次男○○に体調不良などの事情があって、上記不動産を長男○○に相続させることとしました。しかし、次男〇〇は、その後も私の面倒をみてくれており、いつもありがたいと思っています。引続き面倒をみてもらおうと思い、前回の遺言書の一部を書き換えることにして、今回の遺言書を作成しました。長男○○も理解してください。
以 上
本旨外要件
遺言者 〇〇〇〇
昭和〇年〇月〇日生
上記遺言者については、印鑑登録証明書の提出により、人違いでないことを証明させた。
証 人 〇○○〇
昭和○○年〇月○○日生
証 人 〇〇〇〇
昭和○○年〇月○○日生
以上のとおり録取し読み聞かせ、かつ閲覧させたところ、全員がその記載の正確であることを承認し、次に署名押印する。
遺言者 ○○○○
証人 ○○○○
証人 ○○○○
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