事例
相続実務士が対応した実例をご紹介!
相続実務士実例Report
司法書士の遺言書がもめごとを引き起こす!?もめない配慮不足の結末。
■面識のない司法書士から遺言書が届いた
Kさん(50代女性)が相談に来られました。今年亡くなった父親(80代)の相続のことで困っているといいます。
父親の相続人は母親(80代)と同居する兄(50代)と養子になっている兄の子(30代)と、結婚して実家を離れたKさんの4人です。
父親の葬儀の喪主は高齢の母親ではなく、家を継ぐ兄がなって取り仕切りました。昔から家は長男が継ぐものだと両親も言い続けていましたので、Kさんもそれについての異論はありません。
けれども、まったく面識もない司法書士から公正証書遺言の写しが送られてきて、非常に驚いたといいます。それだけでなく、その内容についても納得がいかないというのです。
■父親は資産家で賃貸事業
父親は長男で、祖父から相続した自宅以外にも、いくつかの土地がありました。祖父が亡くなったのは50年近く前で、昭和50年代。まだ土地の評価が低い時で、当時は相続税の基礎控除も多く、相続税はかからずに相続できたということでした。
ところが、その後、バブル経済を経ても土地の評価は以前より上がったことや、相族税の基礎控除が下がったことなどから、父親にはいろんなところから土地活用の提案があり、節税対策として貸店舗やマンションを建ててきました。土地は父親名義ですので、父親の事業ですが、建物の建築費は銀行から借入をしており、兄が連帯保証人になっていることも聞いていました。けれどもその詳細は兄任せでKさんは詳しいことは聞いていません。
■父親の財産と遺言書の内容
Kさんは20代で結婚して家を離れましたが、父親が持つ土地に夫と共有名義で家を建てて住んでいます。父親の土地を借りている状況ですが、土地に地代を払うことはなく、ただで借りている使用貸借です。父親からは相続になったらその土地はあげると言う前提で建物を建てていますので、暗黙の了解のもとに相続できると思っています。
父親の財産は約4億円。遺言書の内容は、Kさんには自宅の土地だけで評価は約4500万円。養子になっている甥はアパート1か所で評価は3000万円。財産の半分の権利のある母親にはなし。残りの3億円以上は兄が一切を相続するという内容になっていました。
Kさんは母親にことの遺言書を知っていたかとききましたが、何も知らされていないとのこと。父親が兄と相談し、遺言執行者である司法書士のアドバイスのもとに作った遺言書だと思われます。
■財産目録の請求
Kさんは父親の亡くなった当時の財産の内容がわからないと言います。こちらでアドバイスしたのは、兄宛に目録を送ってもらうこと、遺留分を侵害している場合には請求することを文書で通知することでした。
Kさんは自分ではわからないので、夢相続で窓口になってもらいたいということで、連絡役を引き受けることにしました。
ほどなくして兄からこちらに電話がありました。自分は詳しい内容は説明できないので、遺言執行者に変わると言い、司法書士のFさんが電話にでました。
そのFさんが言うには、「自分たちは遺言執行を依頼されているだけで、遺留分は関係ない」とのこと。また亡くなってから4ヶ月になろうしするのに、財産の明細が作れていないともいい、それも自分たちではできないという説明。誠意がある言動ではありませんでした。
■遺言書の証人の役割や責任は?
そもそもF司法書士は遺言作成時の証人であり、そのときに財産評価をして遺留分に抵触しない分割案を作成する必要があります。また遺言書は父親の意思で作成するとしても相続人の争いを引き起こさないような配慮として、相続人に遺言書があることや内容を知らせておくだけで争いは減らせます。
父親のプラス財産や借り入れなどのマイナス財産も知らせておき、財産の全体像がわかっていれば今回のKさんのような不満は出ないと言えます。
さらに、なぜ、母親の半分無税という特例を適用して相続税を節税しないのかも、明確な理由があれば、伝えて共有しておくべきでした。
■遺産分割をし直すこともできる
いまだに財産の目録がKさんの手元にとどかず、遺留分を侵害しているのか否かの判断がつきません。これでは、F司法書士は遺言執行者に適任とは言えず、信頼できないと言わざるを得ない状況。
こうした場合、相続人が全員の合意があれば、公正証書遺言に記載された遺言執行者を解任し、別の専門家に依頼することができます。
けれども、今回は兄と甥が遺言書で手続きをするとしていますので、このまま遺言書に従って手続きすることになり、母親とKさんが遺留分の侵害請求ができるのです。
■まとめ
公正証書遺言は家族が揉めないための意思を残すツールです。けれども内容や作り方や伝え方によっては遺留分請求などの争いを引き起こすことがあります。
しかし、関わる専門家の配慮によって想定される争いを未然に防ぐ手立てを講じておかなければならないと言えます。今回の遺言執行者であるF司法書士はそうした配慮や誠意はないように感じられますし、相続人のKさんにはまったく伝わっていないのが現状です。
間にはいる夢相続はこれ以上の争いに発展しないようなクッションになりたいと思いますが、それには専門家同士のコミュニケーションが必要。F司法書士はそれができないようで、残念なところ。法律ばかりを振りかざしていては解決しないといえます。
致し方なく、当事者の兄を窓口にして、解決していきたいというところです。
F司法書士がかざす遺言執行者の権限や役割は大きいので、いかに説明しておきましょう。
■遺言執行者とは
遺言執行者(いごんしっこうしゃ)の役割は、故人(被相続人)が遺言書で指定した内容を実現するための責任を担うことです。これは法律に基づいた重要な役割で、遺産相続や遺言の執行において中心的な役割を果たします。日本における遺言執行者の役割を以下に説明します。
1.遺言執行者の概要
遺言執行者とは、被相続人が遺言書で指定した者、または家庭裁判所によって選任された者を指します。遺言執行者が指定されていない場合、相続人全員が共同で遺言の内容を執行する必要があります。
遺言執行者は主に以下のようなケースで活躍します:
・遺産の分割方法が具体的に指示されている場合。
・子の認知や相続放棄など、法律的な手続きが必要な場合。
・財産の名義変更や債務の清算が必要な場合。
2.遺言執行者の主な役割
遺言執行者の役割には、以下のような具体的な業務があります:
【1】遺言書の内容確認
・遺言書を開封してその内容を確認します。
・公正証書遺言の場合、開封手続きは不要ですが、自筆証書遺言の場合は家庭裁判所で検認を受ける必要があります。
【2】 相続財産の調査・管理
・被相続人が残した財産や債務を把握し、リストを作成します。
・遺産の価値を評価し、必要に応じて保全措置を行います(たとえば、土地や建物の管理、債権の回収など)。
【3】遺言内容の執行
・財産分与や名義変更の手続き。
・特定の相続人や受遺者に財産を分配する。
・遺言書に指示された子の認知など、法律的な行為を実行。
【4】 債務の清算
・故人が残した負債や税金を精算します。
【5】 その他必要な手続き
・不動産登記の変更手続き。
・銀行口座の解約や残高の移動。
・納税手続きや相続税の支払い。
3.遺言執行者の権限と責任
・権限: 遺言の執行に必要な範囲で、遺産を管理・処分する権限があります。ただし、遺言書に書かれていない行為を独断で行うことはできません。
・責任: 遺言執行者はその職務を誠実に遂行する義務があります。もし職務怠慢や不正行為があった場合、損害賠償責任を問われる可能性があります。
4.遺言執行者の選任方法
・遺言書に「遺言執行者として○○を指定する」と明記する。
・遺言執行者が指定されていない場合、家庭裁判所に申立てをして選任してもらう。
5.報酬
遺言執行者は報酬を受け取る権利があります。ただし、遺言書で具体的な金額が指定されていない場合、相続人全員の協議や家庭裁判所の判断に基づいて決定されます。
6.遺言執行者を引き受ける際の注意点
・責任が重い役割のため、専門的な知識が必要になる場合があります。
・相続人との関係が複雑な場合や遺産が多い場合は、弁護士や司法書士などの専門家に依頼することも検討できます。
遺言執行者は、遺言の実現と相続トラブルの回避に重要な役割を果たします。責任が大きいですが、適切に選任されれば遺産分配が円滑に進むため、信頼できる人物や専門家を選ぶことが推奨されます。
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■遺言執行者の通知義務
遺言執行者には、遺言の内容を相続人や受遺者に伝える通知義務があります。この義務は、遺言執行者が遺言の内容を正しく実行するための重要なステップであり、相続人や利害関係者に対する透明性を確保する目的があります。
1.通知義務の内容
遺言執行者は、次のようなことを通知します。
【1】 遺言書の存在と内容の通知
・遺言書に基づき、相続人や受遺者にその内容を正確に伝えます。
・遺言書の内容がどのように自分に影響するのかを明確にする必要があります。
【2】 遺産分割や財産管理の計画
・遺産分割の具体的な方法やスケジュールを説明します。
・財産や債務の現状についての報告を行います(例:財産目録の提示)。
2.通知の対象者
通知の対象となるのは、遺言執行に関係する以下の人々です。
・相続人(遺言で遺産が配分されている者を含む)
・受遺者(遺言で特定の財産を受け取る権利が与えられた者)
・その他の利害関係者(債権者や遺言で指定された特定の人物など)
3.通知のタイミング
通知のタイミングは、次の2つのポイントが重要です。
【1】 遺言執行者に就任した後速やかに
遺言執行者がその役割を引き受けた時点で、遺言内容を相続人や受遺者に知らせる必要があります。
【2】 財産目録を作成した後
遺言執行者は、遺産の全体像を把握し、財産目録を作成したうえで、その内容を通知する義務があります。
4.通知方法
通知の方法については法律上の明確な規定はありませんが、以下の方法が一般的です。
・書面通知:相続人や受遺者に遺言書の写しや財産目録を郵送または手渡しする。
・面談:相続人や受遺者と直接会って説明する。
・電子メールや電話などで通知する場合もありますが、証拠が残る方法が推奨されます。
5.通知義務の目的と重要性
通知義務を果たすことで以下のようなメリットがあります。
・透明性の確保:相続人や受遺者に遺言内容を正確に伝え、誤解や争いを防ぎます。
・信頼の確立:遺言執行者としての誠実さを示すことで、相続人との信頼関係を築くことができます。
・法的義務の履行:通知義務を怠ると、遺言執行者としての責任を問われる可能性があります。
6.通知義務を怠った場合の影響
遺言執行者が通知義務を怠った場合、以下のような問題が生じる可能性があります。
・遺産分割協議や執行の遅延:関係者に適切に通知されないと、手続きが滞ります。
・法的責任:相続人や利害関係者から不信感を持たれ、損害賠償を請求される場合があります。
・遺言無効の主張:不適切な執行や通知の不備により、遺言内容が争点になることがあります。
7.専門家の関与の検討
通知内容が複雑な場合や、相続人間で争いが予想される場合は、弁護士や司法書士など専門家にサポートを依頼することが推奨されます。
以 上
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