事例
相続実務士が対応した実例をご紹介!
相続実務士実例Report
実家の建て直しで名義は長男に!親の借地権はどうなった?
◆夫が亡くなり、財産は妻が全部相続して、納税はなしにできた
Sさん(70代・女性)は昨年、夫を亡くして相続手続きをすることになりました。遺言書はありませんでしたので、亡くなった後、3人の娘たちと遺産分割協議をして、自宅や預金はSさんが相続しました。そうすることで自宅の小規模宅地等の特例が活かせて相続税の納税が不要になりますし、娘は3人とも嫁いで、孫にも恵まれて生活できているので、財産を欲しいということはなく、Sさんが困らないようにしてもらえばいいと言ってくれました。結果、亡夫の財産はすべてSさんが相続したのでした。
手続きが終わった後、Sさんより実家の相続手続きができていないのでどうすればいいかというご相談があったのです。
◆実家は祖父母の代から借地。米屋を営んできた 父親は30年前に亡くなったが
Sさんは4人きょうだいの末っ子。長女、長男、次男、次女の順で、Sさん以外はみな80代と高齢になりました。
Sさんの実家は祖父の代から米屋を営んでいました。まだ周辺は農家が多く、祖父が戦前から始めたものだといいます。その後、長男だった父親が家督相続で家業を引き継いできましたが、亡くなったのは30年前。昭和50年代のことで、父親の財産はほとんどが母親に相続されました。その母親も10年前に亡くなりましたが、手続きができていないといいます。
◆実家は祖父母の代から借地。米屋を営んできた
母親の財産は父親から相続した店舗兼自宅ですが、土地は借地です。80坪の角地の土地を借りて米屋を営んでいて、お店の奥と2階が住まいになっていました。その隣にはアパートを建てて賃貸業もしていました。
15年前にはお店が古くなったので、長男が主となって4階建てのビルに建て替えています。1階が米店、2階、3階は賃貸マンション、4階が自宅です。
建て替えるときには長男から銀行から借入をして、自分の名義で建てると説明されていましたが、あとから母親も頭金を出したということを聞かされたと言います。
◆建て直したときに長男名義にしたが、借地権はどうなった?
Sさんがご相談時に来られた時に、あらためて不動産2か所の建物の登記簿を取得してみました。土地は借地ですので、地主さん名義です。
するとアパートの建物は亡くなったお母さん名義のまま。建て直した現在のビルは長男の説明のとおり長男名義となっています。
母親が頭金を出したというものの、建物に母親の名義は入っていませんでした。
Sさんは、建物の登記簿ははじめて見たということで、現状がどうなっているのかようやくわかったと言っておられました。
この登記簿から推測できることは、母親の相続手続きはされていないということです。15年前の相続税の基礎控除は5000万円+1人1000万円でしたので、9000万円ありました。借地権は60%の地域ですので、自宅とアパートの借地権と預金など合わせても相続税の基礎控除以内で、相続税の申告は不要だったと言えます。
そのときに相続税の申告が必要であれば亡くなってから10カ月以内という期限があり、税理士や司法書士などの専門家も入り、適切なアドバイスがあったかと思います。申告が不要の場合、税務署にはなにも提出する必要がありません。
建物の名義替えもその当時は期限が設けられていなかったことから、15年間、そのままということになったのでしょう。ようやく登記は亡くなってから3年以内に相続登記をすることが義務付けられましたので、早々に名義替えをする必要が出てきました。
◆相続の遺産分割協議をこれからしなければならない
実家の建物を建て替えるとき、母親名義の建物を壊し、長男名義にしていますので、借地契約もし直したかもしれません。あるいは母親が地代を支払ってしたところを、亡くなってからは長男が支払っているはずです。
しかし、母親の相続財産であった借地権の相続の仕方をきょうだいで合意して決めたわけではないといいます。アパートの建物の名義が変わっていないことからも、遺産分割協議はできていないと思われますので、あらためてしないといけないとアドバイスしました。
いまから財産の分け方を決めるのですが、相続税の申告は不要ですので、借地権をどう相続するかを決めて、建物登記を変えることになります。また、実家の土地の借地権の相続も決めることが必要です。長男は自分の建物が建っていて、地代も払っているから、借地は自分のものという感覚のようですが、実は、相続手続きができていないということなのです。
◆親の借地に子どもが建物を建てた場合
長男のように、親の借地に建物を建てた場合、税務的にはつぎのようになります。
土地の貸し借りが行われる場合に、権利金などの支払が一般的となっている地域において、借地人から土地を又借りして家を建て替えるときには、又借りをする人は借地人に権利金や地代を支払うのが通例です。
しかし、親の借地に子供が家を建て替えたときに親に権利金や地代を支払うことは通常ありません。
このように、親の借地権を子供が権利金や地代を支払うことなく無償で使用した場合には、借地権の使用貸借となりますが、親の借地を使用貸借して子供が家を建て替えた場合の贈与税と相続税については、以下のとおりです。
◇贈与税の課税
借地権の使用貸借により借地を使用する権利の価額はゼロとして取り扱われていますので、子供に贈与税が課税されることはありません。
この場合、「借地権の使用貸借に関する確認書」を使用貸借で借り受けている者の住所地の所轄税務署長にすみやかに提出してください。
この確認書は、借地権を使用する子供と借地人である親と地主の3人が、その借地権を使用貸借で又借りしていることを連名で確認するものです。
なお、借地権の貸借が使用貸借に当たらない場合には、実態に応じ借地権または転借権の贈与として贈与税がかかる場合があります。
◇将来相続する際の相続税の課税
この使用貸借されている借地権は、将来親から子供が相続する時に相続税の対象となります。相続税の計算のときのこの借地権の価額は、他の人に賃貸している借地権の評価額ではなく、自分で使っている借地権の評価額となります。
以上のように、長男は家を建てた時に贈与税の申告はしていませんので、母親が亡くなったときに相続税の課税対象とする扱いでした。幸い、相続税はかからない範囲でしたので、残るは遺産分割協議をして決めておく必要があるということです。
Sさんにこうした説明をしたところ、きょうだい全員に説明をして、早々に遺産分割協議をして母親の相続を終わらせたいと言われました。相続する人が決まれば遺産分割協議書の作成や名義替えの手配をすることもアドバイスしてあります。
◆相続実務士のアドバイス
●できる対策
母親の相続手続きのための遺産分割協議が必要
自宅とアパートの借地権の相続の仕方を決めて、相続登記をする
●注意ポイント
借地上の建物名義が長男になったとしても、
借地権の相続はきょうだいの合意がないため、できていないことになります。
早々に遺産分割協議をして決めることが必要です。
最初のご相談は無料です。
TEL:0120-333-834
お気軽にお問い合わせください
コラム執筆