事例

相続実務士が対応した実例をご紹介!

相続実務士実例Report

実家を残すと遺留分算定が課題に。現金だけの財産にしておく手もある。

 

◆母親の二次相続対策をしなくては 

Iさん(60代女性)が相談に来られました。90歳近くなった母親の相続対策を考えておきたいというのです。

Iさんの父親は10年前に亡くなり、母親と弟の3人で相続しました。Iさんと弟は実家を離れて家を購入しているため、おのずと実家は1人暮しになった母親が相続しました。

父親の相続のときはまだまだ元気だった母親ですが、最近は要支援となり、物忘れもめだつようになりました。このまま1人暮しするには不安が出てきたのです。

いよいよ母親の相続を考えないといけない状況だと相談に来られました。

自分が母親と同居をして小規模宅地等の特例を受けられるようにしたほうがいいか?が一番の関心事だといいます。


◆二人きょうだい。弟は海外住まいで介護の手助けはしてもらえない

Iさんはふたりきょうだいで3つ下の弟がいます。弟は大学を出て、商社に入社し、海外勤務などを経験してきました。現在では転職後、ヨーロッパに生活の拠点を移し、家族で生活をしています。日本にはほとんど帰ってこず、父親が亡くなった時に帰ってきた後はコロナの時期にもなり、母親もIさんもあっていない状況です。

以前はもうすこし頻繁に会う機会があったのですが、こうなった理由があります。

 

◆父親の相続でもめた

父親が亡くなる前から弟は海外生活が長かったため、滅多に実家に来ることもない状況でした。父親は公正証書遺言を作っていて、母親に全財産を相続させるとしてありました。ところが、弟は自分にも権利があると言って、法定割合の半分である八分の1を遺留分として請求してきたのです。

よって母親は自宅と預金で約一億円の財産はすべてIさんに相続させるという公正証書遺言を作っているといいます。しかし、弟には母親が公正証書遺言を作ったということは伝えておらず、知った時には父親のときと同様に遺留分侵害額請求をしてくるはずだと想定されます。


◆実家に同居するのがいいのか?

実家の土地は120坪あり、建売3軒分はあります。母親の解雇が必要になった場合、弟は頼りにてせきないため、Iさんは母親と同居して面倒を見ないといけないと思っています。

父親の相続税は母親の特例や小規模宅地等の特例を活かせましたので、納税は減らすことができました。

母親の相続税も同居をすれば小規模宅地等の特例を使えることは知っていました。

しかし、現状ではIさんは自分で住んでいるマンションを購入していますので、同居はしておらず、家なき子でもないとなり、小規模宅地等の特例は使えないのです。

 

◆節税のための同居は幸せか?

Iさんの母親は几帳面で子供に対しても厳しくしつけをするタイプです。そうしたことが煩わしくIさんも、弟も早く家を離れたのでした。それが母親の老後、また、同居を再開するのは、実は不安があるとIさんは言います。たまに実家に帰ってのときでも意見が対立したりするので、同居だとするとけんかが絶えない親子になるのでは危惧しているといいます。

相続税の節税のために自分の生活環境を変えて窮屈な思いをするのは本末転倒だと言えます。しかし、同居は小規模宅地等特例が使えるという前に親の介護が主目的であり、その結果、特例が使えるというものですが、介護はいまや専門家に託すことができる時代です。同居しなかったことが介護を放棄したことにはならないでしょう。

 

◆母親が住み替えることも選択肢

母親はいまのところは要支援2という判定で、なんとか1人暮らしができています。けれども買い物や病院への通院などはひとりではできなくなっており、Iさんが定期的に実家に帰って母親のサポートをしています。同居したほうが楽だというところですが、会社への通勤を考えると駅までバス便の実家では大変だというのが現実です。

Iさんは60歳になり、長年勤めた会社に再雇用の形で継続して勤務しています。65歳までは働きたいと思っているので、すぐに実家に戻って同居する決断はできないと言えます。

しかし、あと5年となるとその間、母親の介護度や認知症が進行するのではと懸念しています。

そうした不安を抱えるよりも、母親が介護のケアが受けられる高齢者住宅に住み替えるということも選択肢だとアドバイスしました。

 

◆広い土地は維持しにくい

母親はIさんに自宅を相続させるという遺言書を作成していますが、一人暮らしのIさんには120坪ある実家の土地は広すぎて、維持しにくいと言えます。相続になってから売却することも選択肢ですが、母親が住替えて、自宅も売却することができれば、問題は少なくなります。

母親が自宅を売却するときは、利益の3000万円までは課税されない特例があります。これだけでも譲渡税600万円を節税することができるのです。

さらに売却代金で評価の小さくなる区分マンションを購入して、賃貸しておけば、時価の30%以下の評価に変わりますので、相続税を減らして、尚且つ、遺留分も少なくできるのです。

 

◆現金保有なら遺留分の算定はシンプル

遺留分の算定で課題になるのは不動産の評価です。自宅にしても、マンションにしても、路線価の「相続評価」ではなく、「時価」が算定基準となることが多いのです。けれども実際には売らないために「時価」の算定には不動産鑑定評価を基準にするなど、時間も費用もかかるところ。

それを考えると財産が金融資産だけだと残高で計算できるので、至ってシンプルです。

相続後に遺留分の捻出のために実家を売却するとなると、転居費用、家財などの処分代、解体費、測量費、仲介手数料に加えて譲渡税もかかったりするのですが、こうした費用は遺留分の算定には入れられません。

結果、現金で遺留分を取得したほうが得策で、不動産の所有者は費用負担が大きいと言えます。

煩わしさも考えると、母親が売却して、相続のときは現金などの金融資産だけにしておくことが遺留分の算定に苦労しないことだとなります。

こうしたことからも、母親が自宅を売却して住み替え、遺留分対策とされることをアドバイスしました。

Iさんは、いろいろと整理できたので、母親とよく相談して、母親に理解してもらえるようにしたいと言ってお帰りになりました。

 

◆相続実務士のアドバイス

できる対策

母親が自宅を売却して住み替えることで金融資産だけにする
節税するなら賃貸不動産を購入して評価を下げておく


注意ポイント

遺留分の算定をする際、いちばんの課題は不動産の評価となりますので、
不動産を無くしておくことも対策と言えます。

 

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