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相続実務士が対応した実例をご紹介!
相続実務士実例Report
専業主婦の母親の預金が多い!亡くなった父親の財産で申告必要?
■父親が亡くなって相続税の申告が必要
Hさん(40代女性)が相談に来られました。80代の父親が亡くなり、母親(70代)と弟(40代)の3人で相続手続きをすることになったといいます。
亡くなった父親は自宅敷地で加工業を営んできて、80歳でリタイヤ。実家に同居する弟が後を継いでいます。母親は経理を手伝ったりした時期もありましたが、ほとんど専業主婦として生活してきました。
父親は会社組織にしてきましたので、弟に代替わりする前は自分が株を持ち、代表者として会社運営をしてきました。母親は役員でもなく、会社の株も現在は弟が引き受けています。
長女のHさんは結婚して実家を離れて、県内ながら別世帯です。
■父親の財産と母親の預金
父親が亡くなったため、弟が手配し、以前から決算を担当している税理士に相続税の申告の相談をしてみたといいます。お父さんの財産は自宅と会社が使用する土地、建物、駐車場など不動産が5か所あり、評価は1億8000万円、他に預金、株などで5000万円。あわせて2億3000万円だとなりました。それだけでも相続税が3450万円という計算になります。
ここで問題になったのは、父親の金融資産は5000万円なのですが、それとはべつに母親の預金と株、生命保険を合わせると7500万円。父親以上に金融資産があるということが判明したのです。
■顧問税理士の見解
顧問税理士は、亡くなった父親の相続税の申告をする際、母親の預金も「名義預金」として父親の財産に加算しなければならないと言うのです。母親は専業主婦なので父親よりも預金が多いのは不自然だからという理由だといいます。
父親の財産に母親の金融資産を加えると3億円を超える財産となり、相続税は5895万円。2445万円も相続税が増えてしまいます。
これは母親の財産の32.6%という割合です。まだ配偶者の税額軽減や同居の小規模宅地等の特例が使えるとはいえ、確実に納税は増えるのです。
顧問税理士のいうとおりに申告しないといけないのだろうか?アドバイスをもらいたいというのがHさんの相談の内容でした。
■相続に強い税理士の見解
母親が専業主婦だったとしても、母親固有の財産は持っていてもいいことですし、会社経営をしていた父親よりも堅実に財産を残してきたもあるかもしれません。
母親に聞いたところ、働いていた時期の預金をずっと貯めてきて、投資していた株が増えたり、保険の満期返戻金が入ったりして少しずつ増えてきたものだといいます。父親のお金をまとめて振り替えたりということもないようです。
この状況からは、母親の預金は母親独自の財産として考えればよく、父親の相続財産として申告をする必要がないというのが当社のアドバイスです。
念のため、業務提携先で相続税申告に慣れている税理士にも確認しましたが、同じ見解で、父親の財産とは切り離して考えればよく、それで問題ないという判断でした。
■税理士の判断で変わる
相続税は、証明となる書類を添付して、自ら「申告」しますので、税務署に対して説明できればよいということです。父親の財産のうち、預金は残高証明書を添付しますし、事前に通帳などで入出金も確認しますので、母親の口座に移された記録がないことも証明になります。
けれども、顧問税理士のように「専業主婦にはまとまった預金はない」という固定観念で判断して、相続財産として加算して申告しなければならないという判断をされると相続税が増える結果となり、相続人の負担が増えることになります。
これは、会社の顧問税理士という立場で、税務調査に入られないように、多めに相続税を払って税務署の心証をよくしようということなのでしょう。税務署は多めに納税されたとしても「多すぎるので相続税を減額します」ということにはなりません。相続人よりも、税務署側を向いて仕事をされている風に感じられます。
Hさんには、会社の顧問税理士だとしても、相続税の申告は別と考えて、他の税理士を選択するようにアドバイスし。母親と弟で相談してもらうようにしました。
■名義預金には要注意
名義預金とみなされる場合とは、預金口座の名義人と実際の預金の所有者が異なる場合を指します。このような状況が生じると、名義預金として相続税の課税対象になる可能性があります。以下に、名義預金と判断される主なケースを説明しておきましょう。
◇名義預金とみなされる具体的なケース
1.資金の出所が名義人ではない場合
・預金口座の名義は母親や子供になっているものの、その資金が父親や別の人のものである場合。
・例:父親が稼いだお金を母親や子供名義の口座に入れていた。
・判断基準:預金の元となった収入源(給与、事業収益、退職金など)が名義人以外の人物のものである場合。
2.名義人が口座を管理していない場合
・口座の通帳やキャッシュカードが名義人以外の人物によって管理・利用されている場合。
・例:父親が母親名義の口座を完全に管理しており、母親がその存在や内容を詳しく知らない。
・判断基準:口座の運用や管理の実態が名義人ではなく他者によるものと判断される場合。
3.名義人が預金の使途を決めていない場合
預金を誰がどのように使用するかを実際に決定しているのが名義人ではない場合。
・例:父親が資金の使途をすべて決定し、母親や子供がそのお金を自由に使えない場合。
・判断基準:預金の使用権限が名義人にあるとは言えない場合。
4.贈与の形式が整っていない場合
名義人に対して実質的な贈与が行われておらず、贈与契約書の作成や贈与税の申告も行われていない場合。
・例:父親が母親や子供の口座に資金を移しただけで、贈与の意思や実態が確認されない。
・判断基準:単に資金を移しただけでは、贈与とみなされず名義預金とされる可能性が高い。
5.名義人に収入源がない場合
名義人自身に収入や資産がなく、その預金の出所を説明できない場合。
・例:無職の子供名義の口座に多額の預金があるが、その資金の出所が不明な場合。
・判断基準:名義人がその預金を正当化できる収入や資産を持っていない場合。
6.定期的な入金が名義人以外から行われている場合
名義人ではない人が、継続的または一括で預金口座に資金を振り込んでいる場合。
・例:父親の収入から母親名義の口座に毎月一定額が振り込まれている。
・判断基準:名義人がその資金の管理・利用を行っていないと認定される場合。
7.税務署が実態を調査して判断する場合
税務調査において、名義人が口座の管理・使用実態や預金の出所を説明できない場合。
・例:相続発生後、税務署が預金の状況を調査し、父親の財産とみなす根拠を見つけた場合。
・判断基準:税務署が実態に基づいて、名義人以外の人物の財産と判断する場合。
名義預金を防ぐための注意点
・預金の管理や入出金は名義人自身が行う。
・資金の出所を明確にし、贈与の場合は契約書を作成し適切に申告する。
・生活費や扶養費といった日常的な支援金であれば、その範囲内であることを明確にする。
■母親の預金が独自の財産だと言う証明はどうする?
母親が持つ預金が独自の財産であることを証明するためには、その資金の出所や管理状況を明確にする必要があります。以下の方法で証明をすることができます。
1.収入の記録を提示
母親の預金が自身の収入に基づくものである場合、以下を確認・提示します:
・給与明細や年金記録:母親が働いていた時期の給与明細や受給していた年金の明細。
・確定申告書や税務申告記録:過去の所得税申告書に記載された収入の情報。
これらの記録があれば、母親の収入が預金の元になっていることを示せます。
2.預金通帳の履歴確認
預金通帳の記録をさかのぼり、以下をチェックします:
・預金が母親の収入源から直接入金されていること。
・父親や他者からの大口の振り込みがないこと。
特に、長期間にわたり定期的に母親の収入が積み立てられていることを示せば、独自性が強くなります。
3.贈与や相続の確認
母親の預金が他者からの贈与や相続で得たものであれば、それに関連する証拠を提示します:
・贈与契約書:贈与があった場合、その契約書や記録。
・遺産分割協議書:過去の相続で母親が取得した財産の記録。
4.家庭内の資金管理の実態を示す
家庭内での資金管理が母親独自に行われていたことを説明します。
・母親が家庭の収支を管理し、貯蓄していたこと。
・父親の収入とは別に、母親が管理していた口座があること。
家庭の状況を説明する資料や証言があればさらに説得力が増します。
5.父親との関係性を明確化
父親が母親の預金に関与していないことを示す証拠も有効です:
・父親の資産が別に管理されており、母親の預金とは混在していない。
・父親が母親に贈与していない(名義預金ではない)。
6.金融機関の協力を得る
預金の出所に疑念が生じた場合、金融機関の協力を仰いで過去の取引履歴を詳細に調査することも可能です。
7.専門家の意見を活用
母親独自の預金であることを証明するためには、税理士や弁護士の助言を得ることも有効です。
・名義預金や資金の出所についてのトラブルを未然に防ぐため、専門家に相談して文書を作成してもらうと安心です。
注意事項
・証明できない場合、預金の一部が「名義預金」とみなされるリスクがあります。名義預金と判断されると、相続税の対象となり、母親の財産が減少する可能性があるため、慎重に対応してください。
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