事例
相続実務士が対応した実例をご紹介!
相続実務士実例Report
建築費1億7000万円サブリースで年間の手取り110万円。建てるメリットがない
◆建物が老朽化
Sさん(70代男性)が相談に来られました。父親から相続した土地65坪に建つアパートは父親が相続対策として建てたもので、軽量鉄骨ながらすでに築35年。見映え的にも古くなってきていて、6部屋のうち半分ほど空いてしまっていました。そろそろ建て替えなど考えなくてはと思い、建てた会社に相談すると、次から募集はしないでくださいと言われて、残り2部屋が入居しているものの、ほどなく全室が空室になります。
建て替えの予定ですが、進めていいだろうかというのがご相談の内容です。
◆相続税の試算
Sさんの財産は親から相続した不動産3か所、自宅と築15年のアパートと築35年のアパートがあり、不動産の評価は合わせて1億円、建物が3棟で1800万円、預貯金が2000万円、築15年のアパートの建築費の借入残が2000万円あり、差し引きすると1億1800万円です。
相続人は妻と2人の子どもの3人、基礎控除は4800万円となり、課税財産は7000万円、相続税は925万円と計算されます。
ここから居住用の小規模宅地等の特例が適用できると自宅の土地評価は330㎡まで80%減でき、貸付用の小規模宅地等の特例を適用するとアパートの土地は200㎡まで50%減で計算することができるので、相続税は減額の余地があると言えます。
また、配偶者は財産の半分、あるいは1億6000万円まで納税不要となる税額軽減があるため、相続税の納税は0にする方法もあります。
よってSさんの課題は相続税の節税ではなく、アパートの維持をどうするということだと言えます。
◆空室は対策にならず
建築会社からのおススメがあり、築35年のアパートはすべての部屋を空室にして建て直したほうがいいということで、ほどなく全室が空室になります。そのままではアパートが建っていても賃借人がいないため、土地は更地評価、建物も借家権を引くことはできません。建築費の借入も返済が終わっているので、マイナス要素はありません。結果、更地と同じで節税対策にはならないため、早めに次の対策を進めたほうがいいということになります。
Sさんは建築会社に相談しましたので、建て直す提案をされたのです。
◆建築費が1億7000万円の見積
父親が建てたときの会社からは建て替えの図面と見積の提示があり、営業マンが熱心に勧めてくれるといいます。
Sさんはその会社の見積書を持参されていましたので、確認させていただくと事業費は1億7000万円と記載されていました。
土地は65坪あり、建蔽率60%、容積率200%の立地ですので、130坪の建物が建ちますが、提案のブランは鉄骨造3階建て、45㎡、2DKの部屋で9世帯の建物ができる内容です。
総事業費を建築面積で割ってみると坪単価は170万円となりました。
◆35年サブリースは進めていいのか?
収支のシミュレーションもあり、家賃は1世帯85000円、全戸で765000円。借入返済は月52万円。それをサブリースするのでもろもろの経費を引いた手取りは年間100万円だと。
さらにその建築会社とサブリース契約が前提となっていて、一定額の家賃が振り込まれるので、安心感はあるというものの、デメリットもあります。
査定家賃は765000円の85%で650250円ですが、そこから管理費など80000円が差し引かれ、月額の振り込みは570250円。土地と建物の固定資産税50万円を引くと110万円しか手元に残りません。35年間の借入返済を抱えながら、年間110万円の手取りしか残らないというのは不安があります。
◆土地を残すなら活用
土地を所有する場合、空き地では節税対策はできません。土地を維持しながら節税対策をするなら、建物を建てて賃貸することが必要になります。土地活用でアパートやマンションを建てることは収入を得ることと節税対策をすることの目的があると言えます。
しかし、建物を建てるには建築資金が必要です。資金の余裕があれば自己資金を建築費にするだけでも現金から固定資産税評価の建物に変わりますので十分に節税効果が得られます。けれどもまとまった現金がないことのほうが多く、また、現金は他の使い道のために持っていたいという場合もあり、たいていは金融機関から融資を受けるようになります。
そのため、借入することが節税対策の目的になっていることもあったように思えます。
◆収支のバランスを取ることが必須
特に建築費の借入は30年、35年の返済期間を取る形が多いため、その間、賃貸事業を継続することが大前提となります。賃貸事業で家賃を得て、借入返済し、諸々の経費を支払った後、手元に現金が残り、生活費や貯蓄などに充てられるのが事業の目的と言えます。
賃貸による借地権、借地権のリスクを減額でき、借入も減額できることから、結果的に相続税も減らせるのです。
しかし、Sさんが建築会社から提案をされている賃貸事業は1億7000万円の借入が必要で、相続税はかからなくなるが、35年間返済が必要となるのに、年間の手取りが110万円しかないということは進めるメリットはないと言えます。
◆建て替えるなら建築費の見直しを
土地を維持するならば賃貸住宅を建てることが必要ですが、賃貸は事業でもあるので収支のバランスは見極めが必要です、想定家賃が年間918万円だとすると、利回りで考えても投資額の8%は確保したいところです。その目安で逆算すると事業費は1億1475万円となります。10%を確保したいなら事業費は9180万円となります。
建築会社がSさんに提示している1億7000万円という事業費では利回りは5.4%となり、サブリースの受取賃料では4%となり、それから返済をしていくと、やはり採算ラインから大きく外れていると言わざるを得ない金額なのです。
Sさんにはそうした説明をして、計画を見直すこと、建築会社やサブリース計画は慎重に選ぶようにとアドバイスしました。
◆資産組替も選択肢
Sさんは70代ですので、相続まではまだ15年、20年先と想定されますが、相続対策は早めにしておく必要があります。借入をして土地活用をしないという選択肢もあり、アパートが空室になった時点で、建物を解体して更地で売却し、別の立地で賃貸物件に買い替える資産組替も選択肢だと説明しました。
親から相続した土地ということではありますが、負担や不安を減らしながら、資産活用するために立地を変えることも検討したほうがいい時代となりました。
Sさんは家族と相談して、方向を出したいが、建築会社から勧められるまま建て替えをすることは辞めるので、見極めができてよかったとほっとされていました。
◆相続実務士のアドバイス
●できる対策
土地活用の収支バランスを見極める
資産組替も検討する
●注意ポイント
賃貸事業は20年、30年と長期に渡るため、適正な建築コストなどを判断してスタートしないとリスクとなります。
また、サブリース契約は貸主のメリットが少ないため慎重に。
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