事例
相続実務士が対応した実例をご紹介!
相続実務士実例Report
母親が老人ホームに入り、実家が空家に。生前にできることはある?
■母親は老人ホームに
Nさん(60代女性)が相談に来られました。父親が亡くなった後、一人暮らしをしていた母親は、90代になり、いよいよ一人暮らしができなくなりました。一作年、ヘルパーさんとも相談して、同じ市内にある介護施設に入所することができ、いまは落ち着いているといいます。
そうして実家が空き家になり、2年目になりますが、母親はもう実家に戻って一人暮らしをすることはできなさそう。相続も気になるので、身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本」(Amazonベストセラー1位/図解・エンディングノート付/扶桑社ムック)を買って読んだということで、相談にこられました。
■母親の財産は?
Nさんは長女で、下に妹がいます。2人とも嫁いでいて、Nさんは同じ市内に住み、妹は他県に住んでいるということです。母親の相続人はNさんと妹の2人で、基礎控除は4200万円になります。父親が亡くなったのは20年ほど前で、そのときは母親がすべてを相続し、子どもたちはなにも相続しませんでした。父親の財産は自宅と預金で、当時の基礎控除8000万円以内でしたので、相続税の申告も不要だったといいます。
現在の母親の財産評価をすると、自宅の土地建物は2800万円、金融資産4200万円、生命保険2000万円で合計9000万円ということがわかりました。父親が相続した財産に加えて、自分が働いて得たお金も使わずに貯めてきたということでしょう。生命保険の非課税枠が1000万円ありますので、課税財産は8000万円。基礎控除4200万円をひいた課税財産は3800万円。これを2で割り、1人分の相続財産は1900万円と想定され、税率は15%―50万円という計算式で相続税の計算をすると1人分の相続税は235万円、2人で470万円の相続税がかかると想定されます。2人とも持ち家があり、同居もしていないため、小規模宅地等の特例が使えません。
預金など金融資産が4200万円あるので、相続税が払えないということはありませんが、それでもお金が減ってしまうのは残念。
■生前にできる対策は? 1.自宅の売却
母親ができる対策はつぎのようなことが想定されます。
1.自宅の売却 自宅の活用 3.金融資産の対策 生命保険加入・現金贈与・不動産購入など。
2.自宅の売却については、住んでいた本人が売却すると利益の3000万円まで控除できる特例があり、得策だと言えます。売却代金は評価が下がり、家賃が入る賃貸不動産を購入すれば、土地が小さくなる分、評価が下がり、建物は固定資産税評価から貸家評価になります。一般的には区分マンションのような賃貸物件は時価の3割程度の評価に下がり、家賃収入が得られることになります。相続税が下がり、収入が増えるのはメリットとなります。しかし、長年住んできた自宅はなくなりますので、これがデメリットと言えます。
■生前にできる対策 2.自宅の活用
2.自宅は売らずに維持したいという場合、自宅の活用が対策になります。空家では評価や特例等のメリットがありません。そこで荷物を整理し、リフォームして賃貸すれば、土地は貸家建付地となり時価の6割程度に、建物は固定資産税評価の7割の貸家評価になります。さらには貸付用の小規模宅地等の特例が使えるので、土地評価が200㎡まで50%減にできます。また家賃が入るので、これもメリットです。
ただし、デメリットとしてリフォームしないと賃貸できないため、200~500万円程度のリフォーム代がかかり、月額20万円の家賃が入るとしても1年から3年位の回収期間が必要になります。
■金融資産の対策 ⑴生命保険加入
金融資産でできる対策もあります。預金や有価証券は金額が財産の価値ですので、保有しているだけでは節税対策ができません。金融資産を活用してできる節税対策の一つ目は生命保険で、相続人1人500万円まで課税されません。よって相続人の数×500万円の死亡保険金として受け取れる生命保険に入っておくことが基本となります。ただし、非課税枠以上の受取額で、払い済の生命保険に加入している場合は、非課税枠を超えた部分は金融資産と同様に課税されますので、注意が必要です。
■金融資産の対策 ⑵現金贈与
つぎに現金贈与をする方法が手軽にできる節税対策となります。1人年間110万円までは贈与を受けても非課税となりますので、贈与税のかからない範囲で少しずつ渡していくことができます。贈与は相続人でなくても、孫や子どもの配偶者など誰に対してしてもいいので、費用対効果を考えて贈与する人を決めるようにします。
相続人はこうした贈与につき、相続開始前7年間は持ち戻しされ、相続財産に加算することになりますので、早めに贈与しておかなければ贈与による節税のメリットが生かせません。ただし、相続人以外の子どもの配偶者や孫は持ち戻しはないため、節税効果は変わりません。
■金融資産の対策 ⑶不動産購入など。
金融資産が多い場合は、現金で賃貸不動産を購入して賃貸事業をしておくことで、節税効果が得られます。賃貸不動産は土地は貸家建付地となり、借地権、借家権を掛け合わせた割合を引きます。建物は固定資産税評価から借家権30%を引くことができ70%になります。土地、建物を合わせると購入した時価よりも相続評価は30%程度に下がるため、節税効果が確実となります。また、貸付用の小規模宅地等の特例が使えることもメリットになります。
■N家の場合 母親の希望は家を残したい
Nさんの話では、母親は老人ホームに入所したのですが、つねづね自宅は残したいと言っていますので、「売却」の選択肢はないといいます。それであれば方向性は決まっていますので、自宅を残すための具体的な方法を選べばいいと言えます。
普通の戸建て住宅として賃貸するには土地が70坪と広く、子育て世代が借主候補だとすると最寄り駅まで徒歩20分、小中学校までは徒歩30分と遠く、最適とは言えない環境です。
さらにこれからの高齢化社会を考えると、グループホーム型の老人ホームがあり、運営者があればそうした高齢者の需要を拾ってみる必要があります。
■将来 どちらが相続する?
現在、自宅は母親名義ですから、母親が活用方法を選んで進めればいいのですが、母親が亡くなった時にどうするのか、いまから決めておいた方が争いになりません。Nさんにそうしたアドバイスをして、家族で話し合いをしてもらうようにしました。
■実家はNさんが相続することに
母親が生活する老人ホームに、Nさんと妹が出向いて、3人で話をしたところ、母親は自宅は残してもらいたいと。妹は他県に住んでいて自宅まで距離があるのでNさんが引き受けてくれる方がいいが、その分を現金でもらいたいということで、それには母親もNさんも異論はなく、合意できたといいます。
結果、母親の意向を汲み取り、Nさんが自宅を相続していくことになりますが、夫と共有名義の自分の自宅があるので、実家には住まないのは明らかだと言います。よってこれからのことを考えると高齢者のグループホームとして賃貸するのがいいだろうとなったといいます。これから運営者を探して賃貸できるように夢相続でサポートをしていくことになりました。
■まとめ
住まなくなつた自宅はそのままにせず、対策していく必要があります。それも生前に方向性を決めて、子どもたちが協力しながら進めることで対策ができていきます。Nさんの場合は、「売らずに維持するために賃貸住宅にする」ことの方向性が決まりましたので、次のステップでは具体化していくことになります。
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