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相続実務士が対応した実例をご紹介!

相続実務士実例Report

生産緑地解除後は固定資産税が800倍!維持するには土地活用が必須。

 

◆兼業農家で1000坪の畑を所有。生産緑地もある 

Мさん(50代男性)は兼業農家の長男。親と同居して土地を守ってきました。父親から相続したのは、調整区域の農地もありますが、ほとんどが市街化の土地で、そのうちの1000坪が畑です。

Мさんは会社員で、農業専業ではないため、市街化の畑は耕作する余力はなく、一部は雑種地に転用しています。1000坪のうち200坪は生産緑地指定をしてきましたが、30年目となった昨年には、生産緑地の延長はせずに宅地転用することを選択しました。

生産緑地の制度がスタートして平成4年は、父親が元気で野菜を作って自家消費していましたが、父親、母親の順で相続となり、Мさんが畑を相続したのです。

生産緑地を解除したこともあり、これからどうすればいいかと相談に来られました。


◆生産緑地とは?どういう制度?

Мさんの所有の畑について、指定されていた「生産緑地制度」について、簡単に説明しておきましょう。

農地や緑地が持つ環境保全や地盤保持・保水などの働きによる都市災害の防止の機能を維持するため、都市部の農地・緑地を守る必要性を考慮、1974年に「生産緑地法」が制定され、農業を続けたい農家にとって固定資産税等の税負担がその妨げにならないように、一般農地並みの課税に抑える政策がとられたのです。

さらに、大都市圏の地価高騰と住宅問題の激化の中、1992年に生産緑地法の改正が行われ、市街化区域内の農地は、農地として保全する「生産緑地」と宅地などに転用される「宅地化農地」に明確に分けられることとなりました。この改正により、大都市圏の農地も、特定の条件を満たし、自治体による「生産緑地の指定」を受けた場合は、固定資産税が一般農地並みの課税になったり、終身営農することを条件に相続税の納税猶予が受けられたりする税制優遇措置が取られています。
こうした税制優遇と引き換えに、農業以外の用途に土地を使えない、建築物を建てられないなどの行為が制限され、農地としての管理が求められています。「生産緑地の指定を受けて今後30年間営農を続けるなら、引き続き農地課税でいい」という仕組みが生産緑地制度です。

 

【生産緑地の主な内容】
・ 面積が500㎡以上であること
・ 農林漁業を営むために必要な場合に限り、建築物の新築、改築、増築等が認められる
・ 主たる従事者が死亡などで従事できなくなった場合は同様に「買取り」の申し出ができる
・ 自治体が買取らない場合は他の農家などにあっせんする
・ 買取りを申し出た日から3ケ月以内に所有権移転されなかった場合は制限が解除される

このように、生産緑地は農地として維持するために、固定資産税を農地並みに軽減するかわりに、農地として営農することが必須となります。会社員であるМさんにとってはこれからも終身営農することは負担となると判断されたことは現実的だといえるでしょう。

しかも、生産緑地は固定資産税は軽減されるけれども、相続評価は宅地並みであり、純粋な農地の評価ではないのです。

そうしたことからも、将来の相続を見据えるといまから対策しておく必要があります。

 

◆土地の固定資産税が増える

土地を所有していると毎年、固定資産税が課税されます。自宅や貸店舗のように、建物が建っている土地は更地に比べて、小規模宅地の土地の固定資産税は6分の1と多少の優遇措置はありますので、確認しておくと次のような要件となっています。

住宅用地特例(住宅用地に対する課税標準の特例)とは、住宅用地については特別に固定資産税と都市計画税の税負担を軽減する、地方税法上の特例措置です。

 【固定資産税の住宅用地課税】

・固定資産税の課税標準額を評価額の3分の1の額とし、特に面積が200㎡以下の小規模住宅用地については評価額の6分の1の額とします(地方税法349条の3の2)。

 ・都市計画税も同様に、課税標準額を評価額の3分の2の額に、特に小規模住宅用地は評価額の3分の1の額に軽減します(地方税法第702条の3)。


◆生産緑地を解除すると固定資産税が800倍になる!

市街化の土地でも生産緑地に指定している農地に関しては、宅地並み課税ではなく、調整区域の農地程度の課税となり、優遇されています。

いままでは生産緑地の最大のメリットといえる固定資産税の軽減を受けていましたので、200坪の農地は年間630円の固定資産税の負担で済んでいました。けれども、解除した今年からは固定資産税が宅地並みに増えることは明らかです。

そこで、まずは固定資産税の増額を想定することが必要になります。Мさんは固定資産税の納付書を持参されましたので、昨年度の評価を確認してみると、生産緑地の固定資産税の評価額は60円/㎡、固定資産税額は1円/㎡程度でしたが、生産緑地に指定していないと、地目が畑は46550円/㎡、税額は784円/㎡となり、地目が畑でも現況が雑種地だと評価は77910円/㎡ 税額は897円/㎡になっていることがわかりました。

解除した生産緑地の面積は640㎡ですので、38400円の評価から800倍だとしても、評価は4986万円となります。年額の固定資産税640円から、800倍では512000円と想定されます。

Мさんの所有地は全体では3000坪ほどになり、毎年の固定資産税は200万円以上も払っています。それでさらに50万円以上も増えることが想定されますので、今まで通りにはいかないのです。

◆駐車場にするにも工事代がかかり、4年間は回収できない

生産緑地を解除した土地200坪は、畑として耕作してきましたので、自家消費程度の野菜では収入にはなっていません。せめてこれから増える固定資産税512000円が賄える収入が欲しいところです。

駐車場運営でシュミレーションすると、月額25台の月極め駐車場を作ったとすると収入はМさんの所有地のエリアは1台の駐車料金は月5000円、25台分で月額125000円、年150万円の収入から固定資産税512000円払えて、988000円残ると単純計算ができます。

しかし、管理委託費10%が必要になるので手取りは835000円。そして、そもそも駐車場にするアスファルト工事などの費用が300万円程度必要になるため、工事代が回収できるのは4年後となります。

 

◆土地活用のプランニング 持っている土地をどう活かすか

土地を残して維持したい場合、判断するポイントは、”土地の特性”から「賃貸住宅に適した立地」なのか、それとも「賃貸住宅には適さない立地」なのかを客観的に見極めることです。Мさんには「土地活用プラン」を利用して見極めることをお勧めしました。

 賃貸事業の意欲があるとしても土地の立地や環境は努力しても変えられないことです。

たとえば、最寄り駅からの距離は近いほど賃貸住宅にとっては有利になりますので、理想は徒歩10分程度とされています。徒歩15分程度なら、賃貸住宅の立地とすれば許容範囲となりますが、徒歩20分以上となると、明らかに不利になると言えます。

 

 立地に不利があるなら、それをやる気や工夫で差別化することはできるでしょう。競争力を持たせるために、全室に駐車場を確保したり、ペットも一緒に住めるようにしたりすることなど、いくつもアイデアはありますが、それでも駅から徒歩○○分の立地は変えられないため、入居者目線で見ると選択肢からはずれることもあるということです。

 

 さらには、賃貸事業は20年、30年の長期間となることも考えないといけません。賃貸住宅を建てると、税務上の耐用年数で言えば、木造で22年、鉄骨で34年、鉄筋コンクリートは47年となっていて、その期間は使用に耐えられるとされています。現実にはもっと長く使用している場合があり、その間は、建物としての価値を活かすために賃貸事業話継続できなければなりません。

 ほとんどの事業は、金融機関から建築費の借入をしますので、建ててしまったあとになって、もう大家さんはいやになったから賃貸事業をやめてしまいたい、と思っても、借入返済はしなければなりません。

 

 しかも、賃貸契約をして賃借人が住んでいる間は、大家さんから一方的な理由で明け渡しを求めることはできなくなりますし、自分の決断だけでは、建物も簡単に壊すことができないということになります。

 

 また、新築で建物が新しい時期は入居者も苦労なく見つかることが多いのですが、年数が経ってしまうと競争力に欠けて、空室が出てくることが想定されることもあるでしょう。 こうしたことから、建ててしまってから、しまったということにならないように、”土地の特性”を客観的に確認して、「賃貸住宅に適した立地」と判断をされれば、不安なく、賃貸事業に取り組めることになります。しかし、「賃貸住宅には適さない立地」だと判断された場合は、賃貸事業を始めても苦戦すると考えられますので、その土地に賃貸住宅を建てないという決断をするようにします。

 

■周辺の家賃相場を調査する

 周辺のマンションやアパートの家賃相場を確認します。地域の家賃相場を把握した上で、家賃設定をするようにします。

■土地活用の可能性、方向性をまとめる

 最寄り駅からの距離は徒歩10分程度が安全圏と言えます。徒歩20分以上でバス便であれば賃貸住宅には適さないと判断します。次に周辺の環境が悪い場合や建築制限により大きな建物が建てられない場合なども不適と判断します。

 土地活用に適していると判断した場合も、どのような入居者層に向けてどのような間取りを提供するのが妥当か、方向性をまとめます。 

 

Мさんは、土地を維持していきたいというお気持ちが強いため、有料の「土地活用のプランニング」を依頼したいと委託を受けましたので、どのような活用が適しているか調査、提案して判断材料を提供するようにします。

 

◆相続実務士のアドバイス

できる対策
土地を維持するためには見極めとなるプランニングが必要

注意ポイント
多くの土地を所有する元農家さんには、売却、資産組替のご提案もするところですが、Мさんは親からの土地は残して維持していきたいとのこと。それには更地で維持することは難しい時代ですので、建物を建てて賃貸する方法をご提案していくことになります。

 

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