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相続になってからできる節税(2)【二次相続対策・土地活用】相続税は0に
■相続対策の準備をしていたが、、
Hさん(50代男性)が、母親(80代)と相談に来られました。父親(80代)の生前対策として自宅の建て替えを検討しているとのこと。そこで、父親の財産の確認と評価をして、自宅建て替えによる相続プランを作成することになりました。
相続人は母親と子どもが3人。Hさんは長男で、2人の妹は嫁いでいます。相続税の基礎控除は5400万円です。財産は自宅と賃貸アパートで、1つの敷地に2棟の建物が建っています。同じ時期に建てているのですが、すでに築50年ほど。修繕費もかかるようになり、建て替えの時期だと言えます。
ところが、財産の確認が終わった頃、父親は入院中に体調が悪化して、亡くなってしまったのです。Hさんからの報告を受けて、生前プランは中断し、相続後の手続きに切り替えることになりました。
■相続税の申告が必要な場合、一般的な相続後の手続きは次の流れになります。
1.遺産の把握と評価
遺産の全体像を把握:相続財産には不動産、預貯金、株式、保険金など多様な財産が含まれます。これらの財産の価値を正確に把握することが重要です。
財産の評価:国税庁の定める基準に従って、不動産や株式などの評価を行います。不動産評価の場合、路線価や固定資産税評価額を元に算出します。
2.相続人の確定
法定相続人の確認: 相続関係説明図や戸籍謄本などを確認し、法定相続人を確定します。
遺言書の確認: 遺言書が存在する場合、その内容に基づいて遺産分割の話し合いが行われます。
3.遺産分割協議
分割方法の決定: 相続人間で、遺産をどのように分けるかを話し合い、遺産分割協議書を作成します。
相続放棄や限定承認の検討: 必要に応じて、相続人が相続放棄や限定承認を選ぶことができます。これには3か月以内の手続きが必要です。
4.相続税の申告と納税
基礎控除額を超える財産の確認: 相続税の基礎控除は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」となっています。これを超える場合は、相続税の申告が必要です。
申告期限: 被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内に、相続税の申告を税務署に行います。期限内に納税をしないと延滞税や加算税が発生します。
相続税の納付: 現金での納付が基本ですが、財産の分割が難しい場合は、物納(不動産や株式で納税)も可能です。ただし、物納には一定の条件があります。
5.その他の手続き
不動産の名義変更: 相続登記により、不動産の名義を相続人に変更します。これは速やかに行うことが推奨されますが、法的な期限はありません。
銀行口座や証券口座の名義変更: 銀行や証券会社に必要書類を提出し、相続人の名義に変更します。
保険金や退職金の請求: 生命保険金や死亡退職金の受け取りには、請求手続きを行います。
6.準確定申告
被相続人が亡くなった年の1月1日から死亡日までの所得について、被相続人に代わり相続人が準確定申告を行う必要があります。これも相続税の申告期限と同じく10か月以内に行います。
7.遺留分侵害額請求の確認
遺言や特定の相続人への偏った分配があった場合、他の相続人が遺留分を主張できることがあります。これは相続開始から1年以内に行う必要があります。
H家の場合、父親は遺言書を残していませんでしたので、3の遺産分割協議をしました。よって7の遺留分請求は該当せず、円満に遺産分割協議ができ、母親が相続する形で手続きが進みました。
■二次相続対策としての土地活用
父親の財産を母親が相続し、もともとの共有の自宅評価を合わせると、母親の財産は
1億8000万円を超えるため、相続税も2000万円を超えてしまいます。自宅とアパートを建て替える土地活用は必須と言えます。
土地活用をするメリットはいくつもありますので、あげてみましょう。
安定した収入源
賃貸アパートを建てて貸し出すことで、定期的な家賃収入を得ることができます。これは長期的な安定した収入源となり、年金や給与に代わる副収入として役立ちます。
土地の資産価値を向上
土地を放置していると固定資産税などの負担だけが増えますが、賃貸アパートを建てることで土地を有効に活用し、資産価値を高めることができます。
節税効果
賃貸アパートを建設すると、固定資産税や相続税の評価額が低く抑えられることがあります。また、減価償却や経費の計上により、税金対策としても有効です。
土地の有効活用
特に都市部や需要が高いエリアでは、駐車場や空き地として活用するよりも、アパート建設によって土地の収益性を最大化できます。土地のポテンシャルを引き出す効果的な方法です。
相続対策
賃貸アパートは、現金や空き地よりも相続税対策として有効です。建物が建っていることで土地の評価額が下がり、相続税の負担が軽減されることがあります。
資産の継承と家族のサポート
賃貸アパートは将来的に家族に継承できる資産となります。また、家賃収入があることで家族の経済的なサポートにもつながります。
住宅供給への貢献
地域社会において賃貸住宅を提供することで、住まいを必要とする人々のニーズに応えることができます。これにより地域社会に貢献する一方、長期的に入居者を確保しやすくなります。
インフレーション対策
物価が上昇するインフレ時には、家賃を引き上げることができ、インフレによる資産価値の目減りを防ぐことが可能です。不動産はインフレに強い資産とされています。
■賃貸併用住宅の事業計画
今までは自宅と賃貸アパートは別棟として2棟建てていましたが、土地は一体のため、1棟の建物として賃貸併用住宅を地建てることを提案しました。そのほうが建築コストが下がり、工事の手間も減らせることになります。
土地は60坪ですので、約100坪程度の建物が建てられます。自宅と賃貸部分の割合をどのようにするかは、収支の影響します。母親の年齢を考慮すると一人暮らしは不安になるため、建て直すタイミングでHさん家族が同居することになり、母親や妹たちの合意も得られました。
よって半分を2世帯住宅の自宅、半分を賃貸住宅とするような案を提案しました。建て替えの事業費は約1億円で、事業計画を立てると下記のようになります。
◇賃貸併用アパートを建設する際、建築費が1億円で、35年返済、金利が1.5%の場合の返済計画と収支計画を具体的に立ててみます。
1.ローンの返済計画
前提条件
借入金額:1億円
返済期間:35年(420か月)
金利:1.5%(固定金利と仮定)
家賃収入:月額850,000円
まず、毎月のローン返済額を計算します。
毎月の返済額を計算
この場合、ローン返済額は 元利均等返済 方式(毎月の返済額が一定)で計算されます。
金融機関が提供する住宅ローンの返済額計算式を使用すると、以下のようになります。
借入額:1億円
返済期間:420か月(35年)
金利:年1.5%
計算すると、毎月の返済額は 306,968円 となります。
2.月ごとの収支計画
月の家賃収入
家賃収入:850,000円
月のローン返済額
ローン返済額:306,968円
収支計画(月額ベース)
家賃収入からローン返済額を引いたものが月々の収益です。
850,000円−306,968円=543,032円850,000円 – 306,968円 = 543,032円850,000円−306,968円=543,032円
月々のプラス収益は 543,032円 となります。
3.年間収支計画
年間の家賃収入
850,000円 \times 12 = 10,200,000円 ]
年間のローン返済額
306,968円 \times 12 = 3,683,616円 ]
年間のプラス収益
10,200,000円 – 3,683,616円 = 6,516,384円 ]
年間のプラス収益は 6,516,384円 となります。
4.その他の費用と収支への影響
賃貸アパート経営には、ローン返済のほかにもさまざまな経費がかかります。以下の費用を考慮に入れる必要があります。
主な経費項目
固定資産税:物件や土地の評価額により異なる
修繕費:毎年、物件のメンテナンスや修繕費がかかります。目安としては年間家賃収入の5〜10%程度(510,000円〜1,020,000円)。
管理費:賃貸管理会社に委託する場合の費用。家賃収入の5%前後(425,000円程度)。
空室リスク:入居率が下がると収入も下がります。
5.最終的な収支シミュレーション
これらの費用を考慮した上で、最終的な年間収支を再計算します。
仮定の経費
修繕費:850,000円(家賃収入の約8%)
管理費:510,000円(家賃収入の5%)
固定資産税:400,000円(仮定)
年間経費合計
850,000円 + 510,000円 + 400,000円 = 1,760,000円 ]
最終的な年間収益
6,516,384円 – 1,760,000円 = 4,756,384円 ]
最終的な年間純利益は 約4,756,384円 となります。
結論
1億円の借入を行い、金利1.5%で35年返済、月額家賃収入850,000円の場合、ローン返済後の月々の手元に残る金額は約543,000円となり、年間では約4,750,000円の利益が見込めます。
■相続税の比較
賃貸併用住宅を建てる前と建てた後の相続税の比較について、一般的な考え方を踏まえ、試算してみます。
1.**前提条件(再確認)**
財産総額 :1億8,000万円
相続人:子ども3人
自宅の評価額:1億5,000万円(仮定)
その他の財産:3,000万円(金融資産など)
2.基礎控除額の計算
相続税の基礎控除額は以下の計算式で求められます。
[3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)]
相続人が子ども3人の場合、基礎控除額は以下の通りです。
[3,000万円 + (600万円 × 3) = 4,800万円]
3.課税対象となる遺産総額の計算
財産総額1億8,000万円から基礎控除額4,800万円を引いた金額が、課税対象となる遺産総額です。
[1億8,000万円 – 4,800万円 = 1億3,200万円]
4.各相続人の取得分と税率の適用
1億3,200万円を3人の相続人で分けるので、各相続人の取得分は以下の通りです。
[1億3,200万円 ÷ 3 = 4,400万円(1人あたり)]
相続税の税率は累進課税で、取得金額に応じて異なります。4,400万円に対する税率は 20% で、控除額は 200万円 です。
各相続人の相続税額
各相続人の相続税は次の計算式で求めます。
[4,400万円 × 20% – 200万円 = 680万円]
5.合計相続税額
3人の相続人がそれぞれ680万円の相続税を支払うため、合計の相続税額は以下の通りです。
[680万円 × 3 = 2,040万円]
2.賃貸併用住宅を建てた後
賃貸併用住宅を建てた場合、自宅部分と賃貸部分ができ、相続税評価額は異なります。特に賃貸部分については、相続税評価額が大幅に減少する可能性があります。
財産内容
自宅部分 :評価額は自宅部分の価値が100%で評価されます。仮に 建築費1億円 のうち 4,000万円 を自宅部分とします。
賃貸部分:賃貸併用住宅の賃貸部分は、相続税評価額が建物の 70% 程度に減額されます。さらに、賃貸部分の土地については 借家権割合 が適用され、土地の評価額が約30%減少 します。
また、借入金1億円があるため、これを相続財産から差し引くことができます。
課税対象となる財産総額
1.自宅部分 4,000万円(100%の評価)
2.賃貸部分6,000万円の70% → 4,200万円
3.土地の評価額:土地部分の評価額も30%減。仮に土地の評価額を5,000万円とすると、3,500万円
4.その他の財産 :金融資産3,000万円
これらを合計すると、
[4,000万円(自宅) + 4,200万円(賃貸建物) + 3,500万円(土地) + 3,000万円(その他) – 1億円(借入金) = 3,700万円]
基礎控除額との差引き
課税対象となる財産が 3,700万円ですので、基礎控除額(4,200万円)を超えないため、 相続税はかかりません。
3.相続税の比較結果
賃貸併用住宅を建てる前 :相続税 2,040万円
賃貸併用住宅を建てた後 :相続税 0円
結論
賃貸併用住宅を建てることにより、建物の賃貸部分が評価減となり、さらに借入金によって相続財産全体が減少するため、 相続税を大幅に軽減できることがわかります。賃貸併用住宅は相続税対策として非常に有効な手段です。
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