事例
相続実務士が対応した実例をご紹介!
相続実務士実例Report
相続土地国庫帰属制度。原野商法で買わされた土地は実現不可能!?
■Aさんの場合 亡夫の母親が買わされた那須の土地
Aさん(60代女性)は夫を亡くして相続手続きが必要だと相談に来られました。
相続人は配偶者のAさんと息子二人で、遺産分割に問題はないのですが、唯一の不安材料があるといいます。
それは亡夫が母親から相続した土地で原野商法で騙され購入した那須にある60坪の山林です。亡夫の生前にも調べたと言いますが、未接道で隣地との境界が不明のため、売却も、国庫帰属も、出来ない状態です。(知り合いの不動産会社や那須の不動産会社、宇都宮法務局に確認済み)
幸い、管理費も固定資産税も不要なので、維持費はかかりませんが、本当は相続したくない土地です。それでも今回、夫が亡くなったため、登記をしなくてはならないので、自分の死後、子どもたちに禍根を残さないようにしたいと思っているとのこと。子どもたちから「お母さんではなく、子や孫が相続すれば、登記費用を1回分なり節約できるかな?」と聞かれているので、そうしたことができるかというご質問でした。
それに対する回答は、「那須の土地を相続できるのは、亡夫の配偶者と2人の子どもたちのいずれか。今回の相続人を飛ばしていきなり、お孫さんにすることはできません。これからできる選択肢は、Aさんが相続して遺言書で孫に遺贈、あるいは子どもが相続してその子(孫)に相続するか、このいずれかになります。
いずれにしても、自分は相続したくない土地で、売却も、国庫に帰属させることも難しく、本当はいらない土地だといいます。
■Bさんの場合 昭和46年に母親が購入した故郷の土地
Bさん(50代男性)の場合は、父親から相続した生まれ故郷にある土地です。Bさんは大学時代から故郷を離れて生活しており、実家は兄が継いでいます。父親が亡くなった時、母親と兄から、実家の土地を分けることはできないので、父親が買っていた近くの土地を相続したらと勧められて、自分の名義にしました。
けれども、仕事の関係で故郷には戻らず、結婚して子どもができてからは、会社に通いやすいところに家を購入して生活しています。妻も子どももBさんの故郷にはたまに帰省するBさんと一緒に行く程度で生活したことはありません。
Bさんは母親の相続の時に兄と遺産分割協議で苦労したことがあり、そろそろ自分の相続準備として遺言書を作成しておこうと夢相続に相談に来られました。
自分の財産はシンプルで自宅は妻に、預金や株などの金融資産は法定割合にすると決めましたので、公正証書遺言の原稿も出来上がりました。
けれどもここで課題になったのは、父親から相続した故郷にある土地です。45坪
の山林で、名義替えの費用は掛かりましたが、それ以後、固定資産税の請求もなく、払ったことがありません。
登記簿から推測するに父親は昭和40年代に買っていますので、値上がりするという期待を持っていたのかもしれませんが、実家から離れた山間のようで、Bさん自身もよく場所がわからない状況。妻に聞いてもいらないと言います。
Bさんからは、国庫帰属制度を利用して、妻子には残さないようにしたいというご相談でした。
売れる土地であれば、自分で処分しておきましょうとアドバイスしたいところですが、住宅地図や公図などで位置関係を調べてみると、公道に接道しておらず、整地もされていない山林のよう。これでは売却も、国庫に帰属もできないという判断になりました。
■Cさんの場合 親が亡くなって相続しないといけない空き家の実家
Cさん(60代男性)がご相談に来られたのは、父親が亡くなり、故郷の土地があるため、処分をしてきょうだいで分けたいということで、売るためにはどうすればいいかということでした。
登記簿や公図で場所確認はでき、現地の様子も確認できました。Cさんの父親の実家は今は解体されてなく、隣接の畑も合わせると150坪の土地は雑木林となっています。建物を解体したのが3年前、父親が亡くなったのが昨年。
昨年までは父親が固定資産税を払っていましたが、今年からは相続人が負担をしなければなりません。建物を解体した結果、更地になった固定資産税はいままでの6倍となりましたので、住んでもなく、使ってもいない父親の実家の土地に、年額8万円の固定資産税がかかるようになりました。
相続人は2人で父親の不動産と預金とでは基礎控除内で相続税の申告は不要ですが、相続の仕方を決めないと相続手続きが進みません。
ネックとなるのが実家の土地で、宅地と農地は一体なのですが、雑木林の現状を見ると買い手がつきません。
宅地の林の伐根伐採の費用がネックなのであれば、必要経費をCさんが負担することで売却を進めたいとも考え始めたということですが、それでも売れるか不明な奥まった立地のため、難航している状況です。
■相続土地国庫帰属制度とは?・・・法務局の情報を転記
1.制度のポイント
(1) 相続等によって、土地の所有権又は共有持分を取得した者等は、法務大臣に対して、その土地の所有権を国庫に帰属させることについて、承認を申請することができます。
(2) 法務大臣は、承認の審査をするために必要と判断したときは、その職員に調査をさせることができます。
(3) 法務大臣は、承認申請された土地が、通常の管理や処分をするよりも多くの費用や労力がかかる土地として法令に規定されたものに当たらないと判断したときは、土地の所有権の国庫への帰属について承認をします。(4 引き取ることができない土地」参照)
(4) 土地の所有権の国庫への帰属の承認を受けた方が、一定の負担金を国に納付した時点で、土地の所有権が国庫に帰属します。
2.申請ができる人
○相続又は相続人に対する遺贈(以下「相続等」といいます。)によって土地を取得した方が申請可能です
相続等以外の原因(売買など)により自ら土地を取得した方や、相続等により土地を取得することができない法人は、基本的に本制度を利用することはできません。 相続等により、土地の共有持分を取得した共有者は、共有者の全員が共同して申請を行うことによって、本制度を利用することができます。
土地の共有持分を相続等以外の原因により取得した共有者(例:売買により共有持分を取得した共有者)がいる場合であっても、相続等により共有持分を取得した共有者がいるときは、共有者の全員が共同して申請を行うことによって、本制度を利用することができます。本制度開始(令和5年4月27日)より前に相続等によって取得した土地についても、本制度の対象となります。
例えば、数十年前に相続した土地についても、本制度の対象となります。
3. 申請先・相談先について
申請先は、帰属の承認申請をする土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局(本局)の不動産登記部門(登記部門)となります。
法務局・地方法務局の支局・出張所では、承認申請の受付はできませんのでご注意ください。 全国の法務局・地方法務局において、制度の利用に関する相談を受け付けています。
4.引き取ることができない土地
国が引き取ることができない土地の要件については、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第25号。以下「法」といいます。)において定められています。
<引き取ることができない土地の要件に関する詳細はこちらのページへ>
【引き取ることができない土地の要件の概要】
(1) 申請をすることができないケース(却下事由)(法第2条第3項)
A 建物がある土地
B 担保権や使用収益権が設定されている土地
C 他人の利用が予定されている土地
D 土壌汚染されている土地
E 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
(2) 承認を受けることができないケース(不承認事由)(法第5条第1項)
A 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
B 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
C 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
D 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
E その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
■まとめ 国庫帰属制度でも救済されない土地が多い
土地神話があった昭和40年~60年ころの日本は成長期でしたので、とにかく土地が財産で、値上がりするという期待値がありました。日本中で、原野を切り売りして売り、それを買う人がいた時代でした。そうした昭和の産物という原野商法で買われた土地は利用することもなく、利用できない土地もあり、もう売却もできない実態が多くあります。
事例のAさん、Bさんは不要な土地で、Cさんも役割を終えた土地ですので、処分が妥当。けれども道路がないなどの状況で売れない土地もあります。
この場合、国庫帰属制度では申請できない土地となり、可能性はありません。
隣接地に買ってもらう、贈与する、一緒に処分するなど、できる方法で処分して、次世代に負担がかからないようにすることが望ましいと言えます。
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