事例
相続実務士が対応した実例をご紹介!
相続実務士実例Report
自宅は区分登記。小規模宅地等の特例は使えない?生前に解消しておけば!
◆自宅は3階建ての二世帯住宅。1階が父親、2,3階は次男名義で区分登記
Sさんは両親と同居する長男です。下の妹は、嫁いで他県に住んでいます。Sさんは、長男ということで、結婚後もずっと実家で同居をしてきました。
家は祖父が建てた2階建てのものでしたが、築年数が経ってきたことから、15年前に建て替えることにしました。当時は両親とSさん夫婦とこどもが3人ですので、両親の部屋よりもSさん家族の方が広く必要でした。
そこで今までよりも広くするために3階建ての建物にして、両親は1階に、Sさん家族が2階と3階を使うことにしてしました。建築会社のお勧めもあり、玄関も水回りも別にした完全な二世帯住宅となったのです。
いままでどおりに1軒の家で同居するよりは、二世帯住宅が流行りだしていたこともあり、融資を受ける銀行の勧めもあり、区分登記をすることにしました。1階は父親が現金で建てましたので、父親名義、2~3階はSさんが銀行融資を受けて建てましたのでSさん名義となりました。
◆父親が亡くなって相続の手続きをしないといけない
父親は80代半ばでも特に病気もなく、元気に過ごしていましたが、突然、倒れて亡くなってしまったのです。心不全だったといいますが、本人も、家族も相続はまだ先と思っていたため、何も用意はしていません。葬儀など一連のセレモニーを済ませた後、Sさんが相談に来られました。
父親の財産のうち、不動産は自宅の土地、建物だけで、あとは預貯金と有価証券です。自宅は260㎡あり、評価は6500万円。預金2000万円、有価証券1000万円、生命保険は非課税枠内でした。財産の合計は9500万円、基礎控除が4800万円ですので、課税財産は4700万円となります。
◆小規模宅地等の特例で自宅の土地が80%減できたら
自宅の土地の評価は6500万円ですが、小規模宅地等の特例が適用できれば、330㎡まで80%が評価減できます。相続税の申告は必要ですが、申告時に自宅の土地の評価はもとの20%の1300万円となりますので、財産の総額が4300万円で4800万円の基礎控除以下の財産評価となるのです。
よって自宅の土地に小規模宅地等の特例が適用できれば、相続税はかからないとなります。
ところが、ここで、問題が発覚します。
◆自宅の区分登記で小規模宅地等の特例は使える?使えない?
同居する人が自宅を相続した場合、330㎡までの土地評価は80%減できる特例があります。自宅の面積は260㎡ですので、全体の80%減できれば、大きな評価減となります。
しかし、建物を区分登記している場合、ひとつの家でもマンションのように別々の家という扱いとなるのです。Sさんの場合も建物は父親が3分の1、Sさんが3分の2の割合で区分登記をしていますので、父親の家は1階の3分の1だけとなります。
すると自宅の土地は全体の3分の1となり、3分の2はSさんが父親から借りている土地となります。
よって小規模宅地等の特例も3分の1の80%減となるのです。
◆区分登記とは?
「区分所有」とは、建物全体を所有権の対象とするのではなく、建物の部屋(構造上区分された部分)毎に所有権を設定するものです。わかりやすく言えば、分譲マンションをイメージすればいいでしょう。分譲マンションは、建物全体に対して所有権を設定しているわけでなく、部屋ごとに所有権が設定されており、そのような所有形態の区分所有といいます。
区分所有されている建物の登記簿には、「表題部(一棟の建物の表示)」「表題部(専有部分の建物の表示)という記載がある一方、区分所有されていない(単独所有又は共有されている)建物の登記簿では「表題部(主たる建物の表示)」という記載になっているので、違いがわかります。
◆区分登記された建物の小規模宅地等の特例の適用?
小規模宅地等の特例は、分譲マンション・二世帯住宅で取扱いを別にするという規定ではなく、区分所有されているか否かで異なる取扱いを行うこととなります。
結果として、二世帯住宅であっても区分所有されているものは、小規模宅地評価減特例の適用上は、区分所有ではない二世帯住宅と、異なる取扱いをせざるを得ないという解釈になります。
例えば1階に親、2階に子供夫婦が居住している二世帯住宅は、内階段がなく1階と2階が内部で行き来することができないような完全分離型の二世帯住宅の場合においても親と子供は同居しているとみなすことができ、小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)の適用を受けることが可能となります。
しかし、1階と2階で区分登記がされている場合には、同居しているとみなされません。 小規模宅地の適用を受けるためには、 相続開始前までに 区分登記を解消し、共有所有に登記を変更する必要があります。
◆生前に区分登記を解消しておくことができたのに
建物を区分登記している場合であっても、相続になる前に区分登記を解消し、共有、あるいは一体の登記に変えておけば、二世帯住宅で同居という形を変えることなく、小規模宅地等の特例を土地全体に適用することができるのです。
以前に相談に来られたUさんは二世帯住宅で同居する長男でSさんと同様の立場でした。2階建ての自宅の1階が父親、2階をUさんとして2分の1ずつ区分登記をされていました。そのままでは父親の相続の時に小規模宅地等の特例が自宅土地の半分しか適用できないと判断されましたので、父親からUさんが建物を買い取るようにして区分登記を解消しました。
その10年後に父親が亡くなった時には自宅土地の全体に小規模宅地等の特例を適用することができましたので、相続税の申告は必要でしたが、納税は不要とできました。
Sさんも相続前に相談に来られていれば今回の相続税はうんと減額することができたのにと残念に思います。自宅の相続の仕方はこれから決めるようになりますが、土地は母親が相続し、建物のSさんが相続して区分登記を解消しておけば、母親の相続の時には自宅の土地全体に小規模宅地等の特例を適用することができます。
◆相続実務士のアドバイス
●できる対策
自宅建物の区分登記を解消して、土地の全体に小規模宅地等の特例が適用できるようにしておく
●注意ポイント
相続までに区分登記を解消しておくことができれば納税の負担は減らせます。今回は配偶者の税額軽減を適用して納税を減らし、二次相続までに建物の区分登記を解消しておくことが必要だと言えます。
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