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相続実務士が対応した実例をご紹介!

相続実務士実例Report

賃貸事業は法人が有利?個人事業のままでいい?相続対策では?

■父親の相続は15年前。

70代のМさん(男性)より相談がありました。Мさんはお父さんが亡くなったときにコーディネートをさせて頂きました。お父さんの財産は約3億円で、自宅の周りに戸建て貸家や駐車場などの土地を持つ方で、相続税の申告が必要でした。当社は亡くなった時からのお手伝いですので、お父さんの節税対策はできていない状況でした。借入はなく、プラン財産ばかりでしたので、相続税は4000万円。相続人は母親と子ども3人ですので、まだ相続税の基礎控除が9000万円のときでした。

母親が自宅や貸家、駐車場などの不動産を中心に半分相続し、きょうだい3人で金融資産などを相続しましたが、相続税は預金から払えたのでした。

 

■母親の二次相続対策で土地活用

母親が相続した不動産のうち、貸家と駐車場は一体の土地で、完成道路沿いにあります。たまたま貸家2棟のうち、1棟の入居者が退去することになり、もう1棟も築年数が経過して古くなっていましたので、店舗、事務所の賃貸物件を建てることを提案しました。

RC造3階建てで、1階店舗、2階事務所、3階住居というプランで、建築費は1億円。銀行融資で調達しています。

駅からの距離はありますが、幹線道路沿いで駐車場もあり、現在も満室稼働しており、年間1200万円の家賃が入る物件です。これで母親の財産は節税となり、小規模宅地等の特例も使えることで、相続税はかからない範囲となりました。

 

■母親の不動産は遺言書で相続

母親は公正証書遺言を作成しており、不動産は同居する長男のМさんにとし、妹二人には預金を3等分して相続させるという内容の意思を残していました。母親が亡くなったのは土地活用をしてから6年後ですが、節税効果もあり、想定通り、相続税はかからないことで手続きを終えることができました。

こうして、両親から相続した不動産はМさんの財産となり、70代になったことから、いよいよ自分の相続も考えないといけない年代となりました。

Мさんの財産は自宅、貸店舗、娘の住む土地、駐車場と預金、株など合わせると3億円ほどになります。父親の不動産を引き継いできたことと11年前に建てた貸店舗の家賃が毎年1000万円以上の収入となり、建築費の返済後も半分以上は残ります。株の評価もあがってきたことなどもあり、財産は増えているといいます。

 

■賃貸事業は法人が有利か?

そうした状況となり、まわりから賃貸事業は法人にしたほうがいいと言われたとのこと。今回は、法人がいいのか、個人事業のままでいいのか、相談したいというのがテーマでした。

Мさんの賃貸収入は建てたビルと駐車場をいれると年間1500万円程。相続人は妻と子供は娘と息子の二人。娘が近くに住んでいて、賃貸物件の管理もしてくれそうです。息子は実家を離れて住んでいます。それぞれ結婚していて、別世帯です。

法人をつくる場合、Мさん以外の家族が代表となり、賃貸事業をしていくのことが望ましいのですが、子どもたちは仕事で忙しく、妻も会社経営などしたことか゜ないのも不安だと言います。

 

■判断基準の年間家賃は2000万円

一般的に法人にして節税効果が得られる家賃は年間2000万円と言われています。主に1つのビルの家賃収入を妻と子どもで分けるとしてもそれほど余裕がないと言えます。

また、相続になればだれが法人の運営をしていくのかも課題になります。

そうしたことから、現状では個人経営のままとしたほうがいいとアドバイスしました。

むしろ課題は相続税の節税と遺産分割だと言えます。まずは金融資産を評価が下がる不動産に変えて、将来、2人の子どもに渡せるようにバランスを取ることが必要です。

そのうえで、遺言書で指定しておけば、もめる要素はなくなります。

 

■まとめ まずは節税して揉めない対策を

Мさんは、法人にしなくていいと聞いて、気が楽になったと言われました。また、妻や2人の子どもにも負担や煩わしい思いをさせたくないので、すっきりしたということでした。

夢相続で、これから節税対策と分割を決めて遺言書作りのサポートをするようにします。。

 

■賃貸事業を法人化する際のメリットとデメリット

この機会に賃貸事業における法人のメリット、デメリットを整理してみましょう。

 

 ◇メリット

1.個人の所得税よりも法人税率が低い場合がある
法人税率は個人所得税率よりも低い場合が多く、特に個人の高所得層では節税効果が大きいです。また、必要経費を法人経費として計上しやすく、節税対策を行いやすい。

2.所得を分散できる
法人として賃貸収入を得ると、役員報酬や配当として分配することで、家族に所得を分散させることができるため、所得税や住民税の負担を軽減できる可能性があります。

3.資産を個人から法人に移すこともできる
個人資産と法人資産が明確に区別されるため、法人の経営リスクが個人の財産に及ぶことを避けられます。また、法人の資産として管理することで、事業承継の際もスムーズに移行できます。

4.法人には相続がない
法人は個人の相続による影響を受けないため、賃貸事業を長期的に継続しやすくなります。相続の際も、法人株式を移転する形で事業承継を行うことができ、手続きが簡略化されます。

5.社会保険に加入できる
法人化により、経営者や家族が役員報酬を受け取り、その結果社会保険に加入できる場合があります。将来的な年金受給のメリットが得られる可能性があります。

 

◇デメリット

1.設立費用および維持費用がかかる
法人設立には登記費用や専門家(司法書士や税理士など)の費用がかかり、法人の維持には税務申告や経理業務なども必要です。また、法人住民税や事業税などの固定費も発生します。


2.利益が少ないと逆に不利になることもある
賃貸事業の利益が少ない場合、法人税や役員報酬の支払いなどがかさみ、結果的に個人で行うより税負担が増えることがあります。


3.赤字でも税金がかかる
法人では、赤字であっても最低限の法人住民税(均等割)が発生します。事業が不振の場合、個人に比べて固定費が重くのしかかる可能性があります。


4.資金の使い勝手が悪くなる
個人事業では、賃貸収入を自由に使うことができますが、法人化すると法人と個人の資金が分離されるため、法人の資金を引き出す際に税金が発生する(配当や役員報酬の形)ことがあります。


5.社会保険料負担の増加
役員報酬を取る場合、報酬に対して社会保険料が課され、個人事業主時代に比べて負担が増える可能性があります。

 

◇結論

賃貸事業の規模や収益状況に応じて、法人化のメリットが大きくなる場合もあれば、デメリットが勝る場合もあります。特に、税金や手続き面での負担増が考えられるため、事業の規模や将来の事業継承を踏まえて、法人化の判断を行うことが重要です。

 

■賃貸物件を個人から法人に譲渡する際のメリットとデメリットを以下にまとめます。

1.個人の所得税負担軽減 

   個人の高額な賃貸収入が減少するため、個人の所得税率が低くなる可能性があります。法人で得た賃貸収入は法人税の対象となり、個人所得税の負担を抑えることができます。

 

2.相続対策

賃貸物件を法人に移転することで、個人の資産が減少し、相続財産の評価額を下げることができます。法人株式の形で資産を移転することにより、相続時の手続きがスムーズに進む場合があります。

 

3.事業の継続性
法人は、個人の死去に関係なく賃貸事業を継続できます。個人の財産を法人に移すことで、事業承継時のトラブルや手続きを軽減し、事業の安定性を確保できます。

4.資産とリスクの分離
法人に物件を譲渡することで、個人の資産と法人の資産が明確に分離され、法人の賃貸事業に伴うリスク(借金、賠償など)が個人の財産に影響を及ぼさなくなります。


5.節税効果
法人が物件を保有することで、賃貸収入に対して法人税が適用され、必要経費を法人の経費として計上できるため、節税効果を得やすくなります。また、役員報酬や配当を通じて所得分散が可能になります。

 

◇デメリット

 

1.譲渡に伴う税負担 

個人が法人に賃貸物件を譲渡する際、物件の譲渡による「譲渡所得税」が発生します。特に物件の価値が高く、購入時から価格が上昇している場合は、大きな譲渡所得が発生し、その結果高額な税金が課されることがあります。


2.登記費用・登録免許税

賃貸物件を法人に譲渡する際、不動産の名義変更が必要となり、登記手続きに伴う費用や登録免許税がかかります。この手続きは煩雑で、司法書士のサポートが必要になることもあります。

3.法人化後の資金の自由度が減少
賃貸物件が法人所有になると、賃貸収入は法人のものとなります。そのため、法人から個人に資金を移すには役員報酬や配当という形で引き出す必要があり、個人で自由に使える資金が減る可能性があります。

 

4.固定資産税や税制優遇の消失
一部の税制優遇(たとえば小規模住宅用地の軽減措置など)は、個人で保有している場合にのみ適用され、法人に譲渡するとこれらの優遇措置を受けられなくなることがあります。


5.法人維持コストの増加
賃貸物件を法人で所有すると、法人としての維持費用(法人住民税や事業税、税務申告など)が発生します。また、税理士や会計士に依頼するコストもかかるため、個人保有時に比べてコストが増える可能性があります。

 

◇結論

賃貸物件を法人に譲渡することは、節税や相続対策として有効な場合がありますが、譲渡所得税や維持コストなどを考慮する必要があります。個々の状況に応じて、譲渡のタイミングや費用対効果を慎重に検討することが重要です。

 

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