事例
相続実務士が対応した実例をご紹介!
相続実務士実例Report
1棟ビルは売却して分ける以外に出口なし。生前に決断しないと悲惨。
◆リサイクル業でビルを建てた
父親(80代)を亡くして家族で遺産分割の話し合いをしているというMさん(40代男性)が兄、姉と一緒に相談に来られました。
Mさんきょうだいの母親は25年前に亡くなり、ほどなく父親は再婚しました。
Mさんは1番下で、長男(50代)、長女(50代)、次女(40代)の兄姉がいます。
父親は40年ほど前からリサイクル業をはじめて成功し、4階建ての店舗兼自宅のビルを建てました。
父親が元気なころは1階でリサイクルショップを経営し、
4階を自宅にして住み、2階、3階は事務所としてテナントに貸していました。
現在は1階も貸していますので、3つのフロアから家賃収入が入ります。
◆商業施設ができて人気エリアになった
父親は先見の明があり、将来性のある土地を選んでいました。
すぐ前の土地が再開発されて大型商業施設ができたことから、以後、人気が落ちない有数の立地になりました。
周辺地域の評価もあがり、地域ぐるみで地名のブランド力が高まっていったのです。
父親の建てたビルは築30年が経過しましたが、
そうした地域のブランド力により、満室経営ができており、賃貸事業は安定しています。
しかし、そうしたいい立地であってもビル自体は築年数が30年以上となり、修繕費用がかかるようになってきました。
エントランスや廊下など共用部分の清掃などは、ビルに住んでいる父親と後妻がしてきましたが、
父親が亡くなり、後妻だけでできるか不安があります。
◆父親は遺言書を残さなかった
父親の財産は約4億円。ほとんどがビルの土地と建物です。
相続税の申告が必要な財産であり、先妻の子供4人と後妻という人間関係にもかかわらず、父親は遺言書を残しませんでした。
子供たち4人ともビルには同居しておらず、父親と相続のことについて話し合うこともないまま相続になってしまいました。
そこで遺産分割協議をするべく、いくつかの案を考えて、相続人で話し合いをしました。
ところがそれがまとまりません。どうすればいいかと当社に相談に来られたのでした。
◆後妻と養子縁組をしていない
父親と後妻が結婚したとき、Mさんはまだ自宅で生活をしていましたので、一緒に生活をした経験があります。
しかし、兄や姉はすでに成人しており、自宅から離れて生活をしていました。
よって、子供たち4人とも後妻と養子縁組はしていないのです。
そうした場合、今回の父親の相続では後妻は配偶者であり、先妻の子供4人も相続人となりますが、
次の後妻が亡くなったときには実子がいないため、後妻の相続人はきょうだいとなります。
後妻は5人きょうだいの長女で、妹2人と弟2人が相続人となります。
ということは、このままでは後妻が父親の財産を相続したとしても、
次の機会にMさんきょうだいが相続できないということになるのです。
次の相続を考えると、すぐにでも
後妻とMさんきょうだいが養子縁組をしておくべきだとアドバイスしました。
◆ビルの課題や介護の負担やストレスを減らせる
今回の遺産分割の方法はいくつか想定できますが、相続人とビルの状態を考えると、
一番問題が少ないのは、「法定割合で相続し、ビルを売却してお金で分けてしまう方法」です。
ビルに住む後妻はこれからの生活を考えてケア付きの高齢者住宅に住み替えることで介護の負担やストレスが減らせます。
実務的にはビルは後妻が相続し、売却した代金で代償金を払う形になります。
それでも譲渡税がかかりますが、二次相続の相続税が減らせます。
◆きょうだいだけでもまとまらない
Mさんきょうだいはなんどか話し合いの場を持ったということで、いくつかの方法は想定されていました。
後妻はビルに住み続けてMさんたちに遺贈するということですが、
それについては長男、長女は反対で早めに売却、分割してしまいたいという意見。
次女とMさんは後妻に半分相続してもらい、子供の権利も登記し、共有、家賃も分け合う立場。
きょうだい間でも意見のすり合わせが難しく、先が思いやられる状況です。
民事信託をしたほうがいのか、任意後見は必要か、遺贈の遺言書も必要になるなどなど、
いろいろな手続きが必要ですが、それすら方針が決まらないようです。
キーとなる後妻も頑ななところがあり、
Mさんたちのいうとおりに任せるということはなく、明らかに温度差があるといいます。
◆先妻の子と後妻は遺言書が必須
父親が遺言書を用意し、遺言執行者を決めてもめない、
不安のない方法を決めておくべきでしたが、このままでは後妻ときょうだい間で意見が平行線。
まとまらない場合は、仕方なく家庭裁判所で調停となりかねません。
先妻の子供と後妻という人間関係ではそれぞれ意思が違うため、遺言書が必須となります。
しかも財産が1棟のビルとなれば分けられないため、さらに事態は悪化しますので、
とにかくもめないよう意思を残すことが必要です。
相続実務士からのアドバイス
1棟ビルの場合は、本来は父親が元気なうちに売却して住み替え、分けられるように準備して頂きたかったと思います。
遅くとも相続時にもめずに渡せる形にすることが不可欠です。
Mさんごきょうだいは、まとまっても後妻さんと意見が合わず。
後妻さんの考えを優先しても次はごきょうだいの意見がまとまらず。
ビルを売却して分ける以外に出口がないのです。
コラム執筆
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