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8年前の相続で父親の財産は兄が独り占め。いまから遺留分は請求できる?

 

◆父親の財産は約5億9000万円 遺言書でほとんどを兄が相続 

Yさん(50代女性)が母親の遺留分を請求できるか?知りたいと相談に来られました。

父親は8年前に亡くなりましたが、公正証書遺言があり、それにより手続きをしました。相続人は母親と兄とYさんの3人です。

父親の財産は自宅、貸店舗、貸宅地、アパート、Yさんが住む家と預金などあり、約5億9000万円でした。遺言書の内容は、母親には150坪ある自宅の土地、建物で約1億円、Yさんが住む土地と建物はYさんにとされていて、約8000万円。残りは全部、長男である兄にとされていました。

母親が相続したのは財産の15%。法定割合が50%、遺言書があるため遺留分は法定割合の半分、25%ですので、あと10%、5750万円までは遺留分侵害額請求ができたということになります。


◆遺留分侵害額請求はしなかった

父親が亡くなったのは8年前で、亡くなった直後に兄から公正証書遺言があることを知らされました。母親も、Yさんも、両親と同居して、賃貸事業などを父親の代わりに仕切ってきた兄には普段から勝ち目がありません。

相続の手続きでも兄が仕切っていましたので、母親は半分の権利があるのに少ないなと思いながらもそのときに文句をいえる雰囲気でもないため、そのままにしてきたと言います。

けれども最近になって遺留分の請求ができることを知って、母親の権利として、いまからできる方法はないかと気になったといいます。

ちなみにYさんの遺留分割合は法定割合25%の半分、12.5%ですので、計算すると7375万円で、相続した自宅の土地、建物で8000万円です。相続評価では遺留分は侵害していないということがわかりました。

しかし、「遺留分算定」となる財産の評価は一律にいかないところがあります。

 

◆預貯金や上場株式の評価は決まっている

相続財産の評価は亡くなった日の「時価」とされています。金融資産のうち、預貯金はその日の残高となり、経過利息を加算します。定期預金も解約利息を計算して算出しますが、すべて計算でき、明確です。

上場株については価格は公開されていて、国税庁のwebサイトでは次のように記載されており、計算の仕方は明確です。

「上場株式とは、金融商品取引所に上場されている株式をいいます。上場株式は、その株式が上場されている金融商品取引所が公表する課税時期(相続または遺贈の場合は被相続人の死亡の日、贈与の場合は贈与により財産を取得した日)の最終価格によって評価します。

ただし、課税時期の最終価格が、次の3つの価額のうち最も低い価額を超える場合は、その最も低い価額により評価します。

イ 課税時期の属する月の毎日の最終価格の月平均額

ロ 課税時期の属する月の前月の毎日の最終価格の月平均額

ハ 課税時期の属する月の前々月の毎日の最終価格の月平均額

なお、課税時期に最終価格がない場合やその株式に権利落などがある場合には、一定の修正をすることになっています。

以上が原則ですが、負担付贈与や個人間の対価を伴う取引で取得した上場株式の価額は、その株式が上場されている金融商品取引所の公表する課税時期の最終価格によって評価します。」

よって、預貯金や株式などはだれが評価しても同じ金額になります。


◆遺留分評価は時価でもできる

預貯金や上場株などはだれが評価をしてもブレがなく、金額の違いはないのですが、「不動産」の中でも「土地」の評価の仕方にはいくつかの方法があります。土地評価の主な方法は、1.固定資産税評価額、2.路線価、3.地価公示価格の3つになります。

1 固定資産税評価額とは、固定資産税の基準とされる価格です。固定資産税評価額は一般に時価よりも安く、流通価格である地価公示価格の7割程度とされています。

2 路線価とは、相続税・贈与税算出時の基準価格を言います。この路線価についても時価より安く、地価公示価格の8割程度と言われています。

3 地価公示価格とは、国土交通省が公示する価格で、市場で売買が行われる場合に、成立すると想定される価格を言います。

こうした価格のうち、遺留分の算定に使われるのは主に売買される「時価」の想定額で、路線価評価よりも高くなるのが一般的です。

この「時価」を遺留分の算定基準とすれば、母親の遺留分の額は増えると言えます。また遺留分を満たしているとしていたYさんについても遺留分を請求する余地があったとも考えられるのです。

 

◆遺留分算定の基礎となる財産は時価評価を行う

このように、不動産の評価方法は複数ありますが、遺留分算定の基礎となる財産額の算出にあたっては、時価による評価をする必要があります。

この点、固定資産税評価額や路線価をそのまま使ってしまうと、(特に高額な土地などの場合)不動産の評価額は時価よりも安くなりがちです。そこで、遺産分割調停や遺留分調停の現場では、当事者間において、固定資産税評価額等を一定割合で割戻した額(例えば固定資産税評価額を7/10で除した額)を時価として合意をすることがあります。

また、同じく調停においては、これらの評価方法を使わずに、不動産業者による不動産の査定を行い、双方が査定書を証拠として提出した上で、双方の査定額の中間額を時価額とする場合もあります。

 

◆8年過ぎると、いまからは請求できず

父親の財産額からすると、本来は母親は2分の1の権利があり、2億9500万円の財産を相続しても相続税がかからない範囲です。Yさんも1億4750万円が法定割合の4分の1になりますので、もう少し多く相続できたといえます。

しかし、8年過ぎた今となれば遺留分侵害額請求の時効にかかっており、今となっては請求できないのです。

しかも、遺留分侵害額請求は個々に本人が、侵害された相手に、文書で請求しなければなりません。母親もYさんも請求できることを知らなかったと言いますが、それでも1年以上過ぎた場合は請求できないとなります。

こうしたチャンスを逃さないために、遺留分侵害額請求を知識として知っておくことが必要になります。あらためて知っておきましょう。

 

◆想定相続分を侵害されると遺留分の請求ができる

遺留分とは、亡くなった人の兄弟姉妹以外の法定相続人に対し、最低限保障される遺産取得分です。子どもや配偶者は法定割合の半分が遺留分となり、財産を相続する権利を持っており、この権利は遺言書によっても奪うことはできません。

従って、遺言書によって長男に遺産のすべてを贈られたり、愛人に財産を残されたりした場合でも、一定の範囲の相続人は、遺留分を主張すれば必ず一定の財産を取得できます。

遺留分が認められる相続人の範囲は、つぎのようになります。

 

◇ 遺留分が認められる相続人

遺留分が認められるのは、以下の範囲の相続人です。

配偶者 亡くなった人の夫や妻が相続人になる場合、遺留分が認められます。

子ども、孫などの「直系卑属」 子どもや孫、ひ孫などの被相続人の直接の子孫を「直系卑属」と言い、遺留分が認められます。

親、祖父母などの「直系尊属」 親や祖父母、曾祖父母などの被相続人の直接の先祖を「直系尊属」と言い、遺留分が認められます。

 

◇遺留分が認められない相続人

被相続人の兄弟姉妹や、兄弟姉妹が先に亡くなっている場合に相続人となる甥姪には遺留分が認められません。

遺留分を請求するには、複雑な計算をしたり、ほかの相続人と話し合ったりしなければなりません。相続人同士が対立していたら、なおのこと大変です

 

◆遺留分の割合と計算方法

遺留分は「最低限度の遺産取得割合」で、法定相続分の半分となります。

例えば、相続人が、亡くなった人の配偶者と子ども2人の場合が相続人の場合、配偶者の法定相続分は「2分の1」ですので、遺留分は「4分の1」となります。

子どもの法定相続分は「2分の1」で、それをきょうだいの人数で割るので、一人あたりは「4分の1」です。遺留分はさらにその半分ですので、子ども一人の遺留分は「8分の1」となります。

 

◆遺留分侵害額支払請求権には2つの消滅時効がある

遺留分侵害額支払請求権とは、亡くなった人の財産について、遺留分を持つ相続人が、自分の遺留分に満たない分をお金で見積もり、その支払いを受遺者や受贈者に請求できる権利です。

2018年7月の民法改正で新設された権利で、2019年7月1日から使えるようになっています。

・遺留分権利者が、贈与または遺贈があったことを知ってから1年間
・相続開始から10年間

2つの期間のうち、どちらかが先に完成することで、遺留分侵害額支払請求権が消えます。もうひとつの期間は、出る幕がなくなります。消滅時効期間にかからないようにといいます。

 

◆相続実務士のアドバイス

できる対策

遺言書により遺留分を侵害されたと知った場合、1年以内に遺留分侵害額請求をする。


注意ポイント

遺留分請求は亡くなってから1年が原則。過ぎてしまえば請求できません。

 

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